信託の基礎

図6

問題は、②の受益権取得を遺留分侵害行為ととらえる説です。「受益権」が遺留分侵害行為の目的物となりますから、遺留分権利者は「受益権」の持分を取得することになります。これは、遺留分権利者が受益者になるということを意味します。したがって、信託設定時に予定していなかった者が、信託関係者として信託に参加していくことになります。そうなると、信託の運営に支障を生ずる可能性があります。なぜなら、受益者はさまざまな監督権を有しているため、信託の運営に対して口を挟むことなどが考えられるからです。前回、説明したような委託者と受益者の合意による終了も、遺留分権利者たる受益者が応じない可能性があります。

よく「信託には遺留分に配慮せよ。」という言葉を耳にしますが、前回の①説を採るならば、それほど遺留分を意識する必要はないと個人的には考えております。なぜなら、遺留分減殺請求の結果、信託設定時に予定されていた信託関係者だけで信託を続けるのか、それともやめるのかの合意をすればよいからです。このことは、信託の設定者である委託者としては、納得のいく範囲ではないかと思われます。しかし、②説は違います。予定外の人が信託に参加した結果、信託の運営方法または終了について信託設定者の想いとは離れた人(遺留分権利者)の意向を伺う事態が生じてしまうのです。

遺留分減殺請求によって、信託財産が目減りすることは問題かもしれません。信託が終了してしまうことも問題かもしれません。しかし、もっと大きな問題は予定外の人が参入して、問題を抱え続けることではないかと私は考えます。

「信託には遺留分に配慮せよ。」という言葉の裏には、このようなリスクが存在することを認識しておいてください。

なお、①説と②説のいずれを採用すべきかについては、現段階で結論は出ていません。通説と呼ばれる段階にも達していないと私は理解しています。しかし、主流は残念ながら②説です。理論的にも②説が自然ですし、私も②説であると考えております。理論構成については、時間が許せば後ほどお話ししたいと思います。今は、この辺で区切りをつけます。(小出)

 

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2018年10月16日 | カテゴリー : 信託の基礎 | 投稿者 : trust