遺言や相続の手続きが変わります(14)~貸金債権の相続①

「他界した父が友人に300万円を貸していた」というケースを想定してください。相続人は妻と子①・子②の3名とします。

この場合の亡父から友人に対する「300万円の貸金債権」も相続人に承継されます。したがって、亡父の相続人3名は、父の死亡後であっても借主である友人に対し「金を返せ!」と請求できることになるわけです。

では、3名の相続人は、それぞれいくらの請求ができるでしょうか?「貸した金は300万円だから、相続人のうちの誰でも300万円全額の請求ができる!」と思いがちですが、そう単純にはいきません。
『相続の対象となった貸金債権は、相続開始(=このケースでは「父の死亡」)と同時に各相続人に法定相続分に応じて当然に分割されて帰属する』というのが、最高裁の考え方なのです(最高裁昭和29年4月8日判決)。
『法定相続分に応じて』なので、妻は150万円、子①・子②はそれぞれ75万円の貸金債権を相続することになります。
『当然に分割されて帰属する』というのは「遺産分割協議の対象にすらならない」ということを意味します。つまり、不動産のように遺産分割協議によって相続人の内のだれか一人(あるいは複数人)に相続させることができるのではなく、このケースの300万円は父の死亡によって直ちに150万円・75万円・75万円に振り分けられることになるわけです。

したがって、妻が父の友人に対し請求できるのは150万円だけであり、父の友人は、妻に対し150万円さえ支払えば、妻との関係では債権債務関係が精算されたことになるわけです。
妻が、3名分をまとめて300万円請求すること自体は可能ですが、この場合、子①→妻・子②→妻の75万円ずつの「債権譲渡」があったか、あるいは「取立て委任」(代わりに回収して!)という契約があったかのいずれかとなりますし、この場合に300万円の請求を受けた友人は、妻に対し「150万円以上は支払えない」と拒むことは許されます。

もっとも、相続人全員が「貸金債権も遺産分割の対象にしよう!」と合意したうえで、有効な遺産分割協議によって妻が一人で300万円を相続したとすること自体は、過去の裁判例でも認められています(京都地裁平成20年4月24日判決)。

また、子①→妻・子②→妻の75万円ずつの「債権譲渡」について有効な対抗要件を具備している場合も、妻が一人で300万円全額を請求できることになり、友人はこれを拒めません。
(債権譲渡の対抗要件については、改正論点となりますので次回詳しくご説明します)   中里

遺言や相続の手続きが変わります(13)~相続登記、今まで以上にお早めに? ②

【事例】(再掲)
A(父)が死亡し、相続人はX(私)とY(弟)の子供二人のケース。X・Y間で遺産分割協議をし、Aの遺産である甲土地はXが相続することとなったが、相続登記を終えていない状態。ところで、Yには借金がありました。Yに金を貸しているNファイナンスは、甲土地の相続登記が完了していないことに注目し、XやYの代わりにAからXY名義への相続登記を申請したうえで、Yの持分を差し押さえてしまいました。

先行する遺産分割協議で、甲土地はXが相続することとなっていますので、Nファイナンスによる相続登記は無効は?
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(前回の続き)
民法177条では、不動産に関する権利について登記を備えていない者は、他人に対し「自分が権利者である」と主張することができないことを定めています。
このことを法律用語では【対抗要件】とよびます。

事例では、X・Y間の遺産分割協議により甲土地の所有権者となったわけですが、未だ登記を備えていない状態です。
この状態で、Nファイナンスが、前回説明した「代位登記」の手法によってX・Y各2分の1の相続登記を備えたわけです。

ここで、遺産分割協議によりXが相続することになったのに、なぜX・Y共有の登記ができるのかという疑問もあるかと思いますが、X・Y間でどのような遺産分割協議がなされたのかという事実はNファイナンスの預かり知らぬ事実です。
また、相続開始後、相続人間で遺産分割協議が調うまでの間、遺産はすべて法定相続分割合による共有となるとするのが、同じく民法の考え方です。
したがってNファイナンスは、遺産分割協議が調う前の状態である法定相続分割合による、いわば暫定的な状態を登記したことになるわけです。もちろん、このような「代位登記」を誰でも申請できるわけではなく、Nファイナンスのように、甲土地を差押えできるような何らかの債権が存在している必要があることも、前回ご説明のとおりです。

さて、177条に戻りましょう。
Xは、相続により甲土地の所有権という権利を取得しましたが、その登記をしないうちにNファイナンスがX・Y共有の相続登記を申請し、かつYの持分を差し押さえたのですから、登記のないXは、登記を備えたNファイナンスに対し「所有権者は私だ。Y名義の2分の1の相続登記は無効だから、差押えもできない」とは、主張できないようにも思えます。
しかし、現行法では、相続により不動産の権利を取得した場合は、売買や贈与のように他人から権利を取得した場合と異なり、登記を備えていなくても権利の主張ができるものと考えられているのです。
この結論は「相続」の法的性質から導かれます。
「相続」とは、亡くなった方の権利や義務を「包括的に承継」
することと理解されていますが、平たく言えば、遺産に関する亡くなった方の権利や義務は、そのままの状態で相続人に承継されるものとイメージすればよいでしょう。
つまり、甲土地を相続したXは、甲土地の所有権者としては、亡くなった父(A)と同一人物と考えればよいことになるのです。同一人物であるなら、すでにA名義の登記がある以上、これをX名義の登記と読み替えて、X名義の所有権が登記されていると考えればよいということなのです。

したがって現行法では、相続登記を備えていないXが、Nファイナンスに対し「差押えの登記は無効」と主張できるのです。

一方、改正法では、自己の相続分を超える部分については177条の問題と同視するという趣旨の改正が施されます。
すなわち、Nファイナンスの代位登記によるY名義の相続登記は、Xの法定相続分ある2分の1を超える部分ですので、Xがこの部分について所有権の取得をNファイナンスに主張するためには、相続登記を備えていなければならないことになるわけです。

改正法施行後は「相続登記は今まで以上にお早めに!」とアナウンスしなければならない事情を、ご理解いただけたでしょうか?   (中里)

遺言や相続の手続きが変わります(12)~相続登記、今まで以上にお早めに?

これまでも司法書士会では「相続登記はお早めに!」と広報活動を繰り返してきました。長期間にわたり相続登記を放置すると、権利関係が複雑化したり、災害時の普及対策や円滑な公共事業に支障が生じたりするなど、「お早めに!」とお勧めする理由もたくさんありました。

ところで、今回の改正では「お早めに!」がより深刻な問題となります。
次のような設問を例に、改正前後の違いを検討してみましょう。

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【事例】
A(父)が死亡し、相続人はX(私)とY(弟)の子供二人のケース。X・Y間で遺産分割協議をし、Aの遺産である甲土地はXが相続することとなったが、相続登記を終えていない状態。

ところで、Yには借金がありました。Yに金を貸しているNファイナンスは、甲土地の相続登記が完了していないことに注目し、XやYの代わりにAからXY名義への相続登記を申請したうえで、Yの持分を差し押さえてしまいました。

先行する遺産分割協議で、甲土地はXが相続することとなっていますので、Nファイナンスによる相続登記は無効は?
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Nファイナンスによるこのような登記申請を「代位登記」といいます。Nファイナンスのように、相続人の一人に対し債権を持っている者は、代位登記の手法によって相続人に代わって相続登記を申請することができるのです。なお、この場合の相続登記は、法定相続分割合のとおりとなりますので、このケースでは、X・Yともに2分の1となります。

本来ならX単独所有となるべきはずなのに、Nファイナンスによる代位登記によってX・Y共有名義となり、さらにYの持分が差し押さえられて競売にかけられることになってしまっては、Xとしても文句を言いたいところですよね。

皆さんは、この結末がどうなるかわかりますか?
実は、法改正の前後によって答えが変わります。
次回、詳しく解説いたしますので、あれこれと頭をひねってみてください!  (中里)

遺言や相続の手続きが変わります(11)~遺留分はこう変わる!②

遺留分算定のための贈与の範囲についても改正があります。

遺留分を算定するための財産の価額は、次の計算式で算出されます(改正民法1043条1項)。
① 被相続人が相続開始時に有した財産の価額 +
② 被相続人の贈与財産の価額 -
③ 被相続人の債務の全額

このうちの②について、この贈与が相続人以外の者に対する贈与であるのか、相続人に対する贈与であるのかによって、異なる規定が置かれました。

 

(1)相続人以外の者に対する贈与

【設問】亡父が、亡くなる3年前に内縁の女性に1000万円を贈与していた事実が判明しました。この1000万円は、遺留分を算定する際に考慮できるでしょうか?

【解説】相続権以外の者への贈与の場合は、相続開始前1年間の贈与に限り、その価額が遺留分に算入されます。以上の点は、改正の前後を通じて実質的な変更はありません。したがって、すでに贈与から3年が経過している今般の贈与は、原則として遺留分算定のための財産の価額に含まれないことになります(改正民法1044条1項前段)。
また、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与は、1年間に限定されない点も改正の前後を通じて変更がありません(同項後段)。贈与の相手が内縁の女性でとのことですので、後段の規定が適用される可能性は高いものと考えられます。

 

(2)相続人に対する贈与

【設問】亡父が、亡くなる20年前に弟に結婚資金として500万円を贈与しています。この500万円は、遺留分を算定する際に考慮できるでしょうか?

【解説】相続人に対する贈与の場合、上記②の贈与財産に含まれる価額は「相続開始前10年間の婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与」とされました(改正民法1044条2項)。かつての判例では、相続人が過去に受けた特別受益はすべて遺留分算定のための財産の価額に含むとされていましたが(最判平10・3・24判例時報1638号82頁)、改正法により10年間の制限が設けられたことになります。
したがって、すでに贈与から20年間が経過している今般の贈与は、原則として遺留分算定のための財産の価額に含まれないことになります。もっとも、相続人に対する贈与の場合も、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与は、10年間に限定されません。
また、特別受益に該当しないような贈与の場合は、相続開始前10年間の贈与であっても遺留分算定のための財産の価額に含まれないことになりますが、この場合も当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与は、10年間に限定されず遺留分算定のための財産の価額に含まれる点にご注意ください。

遺言や相続の手続きが変わります(10)~遺留分はこう変わる!

今般の改正では、遺留分の制度にも影響が生じます。

そもそも「遺留分」とは「遺言が遺されていた場合に、遺言の内容にかかわらず最低限の遺産を取得できる権利」とイメージしていただければ結構です。
たとえば、相続人が子供2名(A・B)の場合に、父親が「遺産は全部Aに相続させる」という内容の遺言を遺していたとしましょう。
たとえこれが故人の意思であるといっても、Bは納得できませんよね。しかし、このケースでは、Bは遺産の1/4について遺留分を有していますので、遺言によって遺産全部を相続したAに対し、1/4の「埋め合わせ」を求めることができることとなり、これを「遺留分減殺(げんさい)請求」と呼んでいます。

なお、遺留分減殺請求は遺言が遺されている場合だけでなく、生前贈与があった場合にも利用できます。

この「遺留分減殺請求」は、実はなかなか理解しにくい制度です。というのも、BがAに対して遺留分減殺請求をした途端(正確には、その請求がAに届いた途端)「自動的に遺言によってAがそうぞくすることとなった遺産(このケースではすべての遺産)がA・4分の3,B・4分の1の共有状態となる」というのが現行民法の考え方なのです。
もちろん、すべての遺産が共有では以後の管理に支障が生じますので、その後にA・Bが協議し、双方納得する形でBに1/4の「埋め合わせ」をすることになります。具体的には、1/4に相当する預金や不動産をBが相続することとしたり、全部Aが相続する代わりにAからBに対して代償金を支払ったりする方法により、解決が図られることになるわけです。

 

この点、今回の改正では「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」という名称に変更し、その性質も大きく変わります。従来の考え方では、遺言や生前贈与による財産が、財産を取得した者(上の例ではA)と遺留分を請求した者(上の例ではB)との共有になると説明しました。
しかし、改正法では、遺留分を侵害する遺言や生前贈与であっても、その財産の所有権は確定的に財産を取得した者(A)に帰属します。一方で遺留分侵害を受けた者(B)は、財産を取得した者(A)に対し、遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができるようになりました。
ここでいう「金銭請求」は「Aが遺言や生前贈与によって取得した財産のうちの預貯金から、遺留分に相当する金銭をBに引き渡す」というものではなく、「遺産である預貯金はいったんはAのものとなり、そのうえでAは、遺産である預貯金とAがもともと持っていた預貯金とを合算し、その合計額からBに対し、Bの遺留分に相当する金銭を支払え」という請求になるわけです。

改正法では、BはAに対し「金銭請求」ができるだけです。したがって、Bが遺産のうちの特定の不動産を相続したいと考えていたとしても、Aは金銭による支払いに応じるだけで足ります。
もっとも、A・B間で、金銭に替えて特定の不動産を引き渡すという「代物弁済契約」を締結することは、もちろん可能です。         (中里)

遺言や相続の手続きが変わります(9)~勝手に預貯金を引き出された!

複数回にわたって、相続開始後、遺産分割協議成立前に、遺産である預貯金債権について一定条件の下で仮払いが受けられるという、改正法による新たな制度をご説明しました。

ところで、遺産である預貯金の解約・払戻しが受けられるのは、遺産分割協議成立後であるという大原則が改正法によって変更されるわけではありませんので、バックナンバーで説明した仮払い制度は、一定の条件を充足している場合における例外的措置であるとご理解ください。

そうすると、本来であれば仮払いが受けられないケースであるにもかかわらず、相続人の一人が、相続開始後に勝手に預貯金を引き出して使ってしまったようなケースでは、どのように対応すればよいのかが問題となります。

この点、現在の実務では、遺産分割協議の対象となる財産は「相続開始時に存在し、かつ遺産分割協議時ににも存在する遺産」と考えられています。このため、相続開始時には存在していた遺産であっても、その後、相続人の一人が勝手に引き出して使ってしまったため、遺産分割協議時には既に存在していない遺産については、遺産分割協議の対象には含まれません。
この場合、勝手に使ってしまった相続人に対し、他の相続人が不当利得や損害賠償という、遺産分割協議とは別個の請求をすることによって解決を図らなければなりません。
遺産分割の調停や審判は家庭裁判所が管轄しますが、不当利得や損害賠償の調停は簡易裁判所の管轄ですので、遺産分割調停の中で不当利得や損害賠償などの問題を1回的に解決することは、原則としてできないこととなるのです。

しかし、これでは、勝手に引き出されてしまった他の相続人にとっては手間が増えるだけでデメリットしかありません。
そこで改正法は、勝手に引き出して使ってしまった相続人を除く他の相続人全員が同意した場合には、引き出された預貯金が遺産分割協議時にもなお存在するものとみなして、遺産分割の対象となる財産に含めることとしました(改正民法906条2項)。
遺産とみなされることから、家庭裁判所の遺産分割調停による1回的な解決も可能となるわけです。

なお、この規定により、相続開始後遺産分割協議前に遺産を勝手に処分した相続人は、遺産分割における取り分が減少することとなるわけです。    (中里)

遺言や相続の手続きが変わります(8)~多額の遺産の仮払いは可能?

これまで、他の相続人の同意がなくても、一定の範囲内の預貯金債権について金融機関から仮払いが受けられるようになることをご説明した。

しかし、この制度が利用して仮払いを受けられる金額には上限がありますし、そもそも制度の主な目的が遺産分割協議が成立するまでの急な資金需要に対応することにあるため、高額な仮払い請求には対応できません。

しかし、相続人間の遺産分割協議が難航するようなケースでは、数年間にわたって調停や審判が係属することも、実は珍しくありません。このような場合に、たとえば遺産の一部を子供の進学費用に充てることを目論んでいたようなケースでは、資金繰りに支障が生じてしまいます。

このような場合、改正法では、家庭裁判所に対し遺産分割調停の申立てをし、あわせて預貯金仮払いの保全処分を申し立てる方法が用意されています(改正家事事件手続法200条3項)。

この申立てが認められるためには、相続人の生活費の支弁や相続債務の弁済のために必要であることを疎明しなければなりません。また、他の相続人の利益を害さないことも要件とされています。「他の相続人の利益を害さない」とは、仮払いを請求する相続人の法定相続分相当額を超過する仮払いは、原則として認められないという意味です。

また、遺産分割調停や審判が係属することを前提とする保全処分となります。すでに調停や審判が進行している場合であれば問題なく利用できますが、まだ申立てをしていない場合、仮払いの保全処分申立てと同時に遺産分割調停の申立てをする必要がある点にも、ご注意ください。

なお、改正民法909条の2の仮払い制度と異なり、遺産の一部分割とみなされる規定はありません。したがって、遺産分割調停や審判では、保全処分によって仮払いを受けた預貯金分も含めた遺産分割が行われる点にもご注意ください。  (中里)

遺言や相続の手続きが変わります(7)~「仮払い」の補足

前々回、次のようなことを書きました。
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仮払いを請求できる預貯金の金額には、次の(1)(2)のいずれか少ない額という上限が定められています。
(1)相続開始時の預貯金債権の残高の3分の1に法定相続分を乗じた額
(2)150万円
相続人が子供二人、【相続開始時、A銀行に600万円の預金残高】があったとすると、各相続人は次の計算式により100万円の仮払いをA銀行に請求することができるわけです。
600万 × 1/3 × 1/2(法定相続分)= 100万円
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このうち【相続開始時、A銀行に600万円の預金残高】の部分は「金融機関ごと」に考えます。

たとえば、この事例設定で、A銀行のア普通預金に300万円、イ定期預金に600万円、B信金にウ普通預金30万円の遺産があったとしましょう。
この場合、相続人の一人が仮払いの請求をできるのは、A銀行に対して150万円、B信金に対して5万円となります。
A銀行について、仮払い請求のできる上限額が「口座ごと」ではなく「金融機関ごと」、つまりA銀行の預金残高全体から判断しますので、必ずしもア普通預金から50万円、イ定期預金から100万円という払戻しとなるわけではなく、ア普通預金から150万円の払戻しということもあり得ます。

では、金融機関は現実にどのような対応をするのでしょうか?
現時点で、この点について明確な指針を示している金融機関は、私の知る限りありません。そもそも、現場の行員のなかには、このようなせいどが間もなく施行されることすら知らない方も少なくないのではないでしょうか?
複数口座からそれぞれ限度額を払い戻す方法は、口座が複数口に分かれていたり、複数の支店にまたがって取引をしていたりしたケースでは、事務処理の煩雑さを招きます。
しかし、預金利率の違いなどがあるので、ある特定の口座から限度額いっぱいまで払戻しをすることが、相続開始後の発生利息に影響を与えるという事態も全く考えられないわけではなく、何とも悩ましい点です・・・

このあたりは、実務の動向を注視するしかありませんが、私見としては、仮払いの請求があった時点で、特定の普通預金口座を除くたのすべての預金を仮払い請求者である相続人から解約させ、残る普通預金口座にすべてを集約したうえで、仮払いの限度額を算定する方法が妥当ではないかと考えています。   (中里)

遺言や相続の手続きが変わります(5)~葬儀費用の払戻しは可能?②

前回ご説明のとおり、各相続人は、相続開始後、遺産分割協議が成立する前であっても、金融機関に対し、一定の預貯金債権について払戻しを請求することができるようになりました。
「預貯金の仮払い制度」と呼ばれる方法で、改正相続法によって新設された規定です(改正民法909条の2)。

仮払いを請求できる預貯金の金額には、次の(1)(2)のいずれか少ない額という上限が定められています。
(1)相続開始時の預貯金債権の残高の3分の1に法定相続分を乗じた額
(2)150万円

相続人が子供二人、相続開始時、A銀行に600万円の預金残高があったとすると、各相続人は次の計算式により100万円の仮払いをA銀行に請求することができるわけです。
600万 × 1/3 × 1/2(法定相続分)= 100万円

この請求は、法律が各相続人に認めた権利ですので、他の相続人の同意がなくても金融機関に対して支払いを求めることができます。請求を受けた金融機関側も、遺産分割協議が成立していないことを理由に払戻しを拒むことはできません。

なお、この制度を利用して払戻しを受けた預貯金は、払戻しを受けた相続人が遺産の一部分割によって取得したものとみなされます。つまり、先の例では、払戻しを受けた100万円について「実際には遺産分割協議が行われていないにもかかわらず、法律の規定によって遺産分割協議が完了したものと取り扱う」ということになります。したがって、払戻しを受けた100万円については、以後の相続人間の遺産分割協議の際に分割協議の対象となる財産から除外される点にご注意ください。

また、前回の設問では、資金使途を「葬儀費用」としていましたが、この制度は資金とを限定していませんので、生活費や借金の返済(相続債務だけでなく、相続人自身の借金の返済に充てることも可)など、払戻しを受けた預貯金は何のために利用しても構いません。

遺産分割協議の長期化が見込まれるような場合には、利便性の高い制度となりそうですね。なお、この制度を利用した払戻請求ができるのは平成31年7月1日以降ですが、同日以降の請求であれば、同日以前に開始した相続に関しても利用できます。  (中里)

 

遺言や相続の手続きが変わります(4)~葬儀費用の払戻しは可能?①

間もなくご臨終を迎える・・・ このような局面に遭遇したとき、しばしば「亡くなる前に預金を引き出しておいた方がよい」という話が持ち上がり、実際に銀行の窓口に出向いたところ「本人確認が取れないとダメ」と断られ、やむなくATMで1日の限度額いっぱいまで数日にわたって出金した等の経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか?

このような行動をとる目的のひとつには、相続人間で遺産分割協議がまとまらない可能性が高いため口座の長期凍結を避けようというものがあるでしょう。しかし、このような場合、往々にして後日の遺産分割調停などで出金した金額を遺産に組み戻す等の処理がなされるため、結局は無意味な行為となってしまいます。

もっとも、相続人間の紛争はあり得ないというご家族でも「葬儀や法要等で多額の支払いを要することになるため、その支払いに充てるために預金が凍結される前に引き出しておきたい」というニーズはあるでしょう。
確かに、相続開始後は、たとえ葬儀費用に充てる目的であったとしても、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書と印鑑証明書等をそろえて銀行に提出しなければ払戻しには応じてもらえないのが原則ですので、相続人の中に遠方や海外在住者、あるいは認知症を患う高齢者等がおり、遺産分割協議や必要書類の用意に支障が生じるケースなどでは、厄介な問題ともなるわけです。

ところで、実際の実務では、葬儀費用の請求書などを銀行に提出することにより、全員の印鑑がそろわない場合でも一部の払戻しに応じる事実上の処理に応じることで、顧客の便宜を図る銀行側の対応もしばしばみられますが、あくまで便宜的な取扱いにすぎませんでした。

しかし、改正法では、法律の規定によって各相続人が単独で一定の預金払戻しを求めることができるようになりました。
詳細は次回に!     (中里)