報酬(14)

前回指摘のとおり「成功報酬制の採用」は、そのことだけをもってしても「代理行為をしている」という外観を作出することになります。

もちろん「代理権のある行為について代理すること」「代理して依頼者が得た利益に対し成功報酬を受領すること」は何の問題もありません。「代理」という部分は、成年後見や民事信託のような財産管理型の事案については【包括受任】と置き換えた方がこの連載の読者の方にはわかりやすいですね。

しかし、民事信託における「信託財産の●%」という報酬規定は、【包括受任】の性質を持たない民事信託(この点は、過去の連載で繰り返し指摘してきました)の事案では、司法書士の提供する事務との対価均衡性を欠く部分が相当程度存在することとなり、その対価均衡性を欠く部分が「【包括受任】できない事案を【包括受任】している」という評価につながってしまった場合に、140万円超の過払金請求の事案と同様に弁護士法違反なり、信託業法違反なりという違法行為を構成することになるのではないかという懸念につながるわけです。

では、民事信託業務において司法書士報酬をどのように規定すべきかということが次の問題となります。
次回以降は、この点についての試案をご紹介していきます。

(中里)

2018年8月31日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

自社株式の信託のときの楽しみ

信託というと土地や建物、そして金銭を信託する内容が一般的ですが、株式会社の経営者からの相談となると自社株式の信託の件が入口の相談となることがあります。

私は、相談の中で、依頼者の想いやストーリーを伺うことが大好きで、ついつい相談時間が長くなってしまいます。

中でも、経営者の場合には、経営に対する想いや理念、戦略の話となると2時間くらい続けて経営者のお話を聞き続けることも度々あります。

先日も、ある経営者の方から、とても面白い戦略ストーリーをお聞きすることができました。その後も、その方の自社の過去の歴史、強み、今後のビジョンをお聞きすることができました。隣にその方の奥様も同席されていたのですが、なぜかハンカチで涙を拭きながら、頷きながら話を聞いていらしたのが印象的でした。

もちろん、自社株式の信託に関する契約書案もしっかりとご説明させていただきましたよ♪

(ななみ)

2018年8月30日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

信託口口座の開設

今年の5月に信託契約をしたお客さまがいました。

そのときの契約書を持参して金融機関に行き信託口口座を開設したいと申し出たところ,当該金融機関はその契約書の内容では不十分のため加筆してもらわなないと開設できない,ということでした。

私はその報告を受け,お客さまと協議して,今後の対応を協議しました。その結果,金融機関の指摘のとおり加筆することになりました。

そして,先日,5月の信託契約の変更契約を締結しました。

お客さまは,その足で金融機関へ信託口口座の開設に出向かれたようで,無事に手続をすることができたようです。

また一つ,信託の手続で経験値を上げることができました。お客さまには心より感謝しております。この場を借りてお礼申し上げます。(本木敦)

 

 

2018年8月29日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

信託の基礎

ここまでの説明を振り返りますと、受託者は2種類の財産を所有していました。一つは「自分のため」の「固有財産」、もう一つは「他人のため」の「信託財産」です。そして、成年後見制度と同様に、この2種類の財産を取り分けて管理等することが大きなポイントでした。しかし、成年後見制度と異なって、信託財産は受託者名義になります。これは、どのような効果をもたらすのでしょうか?

以下の図を使いながら、説明を進めていきます。

図3

信託財産である賃貸マンションに修繕が必要になったとします。ここで、工事を依頼すれば修繕費が発生します。この修繕費は、信託財産のために費やしたものですから、当然信託財産にて弁済します。今の説明は、図の一番右側の矢印で示しています。この点は問題ないと思います。ちなみに、このような債務を「信託財産責任負担債務」と言います。

同様に固有財産である賃貸マンションの修繕を行えば、固有財産から支払いをすることになります。図の一番左側の矢印の説明です。これもご理解いただけると思います。

では、信託財産の修繕費を信託財産から支払うことができなかった場合はどうなるのでしょうか?賃料の入金前で資金が不足していた場合などが考えられます。受託者は「信託財産にお金がないから支払えない。」と突っぱねることができるのでしょうか?それは、おかしな話です。そもそも、受託者が工事請負契約を締結できたのは、信託によって信託財産が受託者の所有に属しているからできたのです。なぜなら、「信託の目的」という制約はありますが、その制約内において、受託者は信託財産を管理・運用・処分する権限を与えられているからです。その管理方法の一環として、工事請負契約を締結することができたのです。権限に伴って発生した債務について、責任を負うことは当然のことです。

債権者の立場からしても、債務者が受託者であると認識して取引関係に入っているわけです。このような点を踏まえると、受託者が信託財産負担債務を固有財産にて負担することは、むしろ自然であるといえます。以上の点を図で表しているのが、右から2番目の矢印となります。

先ほどの説明で分かると思いますが、受託者の地位というのは、保証人の地位に非常に近しいものと言えます。そのような地位に受託者があるということは大事な点です。受託者に就任する方は、以上の点を認識して就任を承諾していただきたいと思います。

なお、左から2番目の矢印の説明は、次回に譲ります。(小出)

2018年8月22日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

こば紀行#69 菊川ブルーベリーの郷

このコーナーでは、浜松から日帰りで行けるプチ観光スポットをご紹介しています。

第69回目は菊川ブルーベリーの郷

N氏家族とはよくフルーツ狩りに行く。最近はどうもブルーベリーにハマっているらしく、今シーズン2回目だ。ブルーベリー狩りのシーズンは6~8月下旬、小粒でサクサクと食べやすく、小さな子供向きでもある。いつもは浜松市の三方原にある農園に行くのだが、今回はちょっと趣向を変えて菊川まで行くのだそうな。

川でも割と海よりに近い方なのかと思うが、いずれにせよ周囲には何もない。旧小笠町にある農園で、ハウス栽培ではなく、山の斜面にブルーベリーの木が植わっている。園内はそれなりに広く、品種毎にエリアが分かれていて、ちょっとしたハイキングをしながらブルーベリーを摘んでいくことができる。こういうスタイルは大好きである。時間制限もないため、急かされることもなく色んな品種を楽しめるのだが、この炎天下ではそれなりに限界がある。

もともとは小笠地区の遊休農地であったところを、10数年前に現在の女性農園主が農業経験もほとんどないところからスタート、今や年間3万5000人が訪れる観光農園にまで発展させた。農園のみならず、ブルーベリーの素材を生かしたジャムやジュース、パスタやサプリなど様々な商品を開発し、ネットショップまで展開している。そういえば、こばやしの業界内にも似たような女性実業家がいたことを思い出した。柔軟な発想力とそれを行動に移す力はほんと凄いと思う。

で、その発想力の塊のような商品を発見した。その名も「ブルーベリーカレー」。いくらなんでもこれはやりすぎだろ!と思うような毒々しいみてくれ。こば紀行の取材という使命を帯びてなければ間違いなくスルーしていたそのメニューを、N氏家族の反対を振り切りオーダーする。そして、待ち構えた商品が到着、皆さんカメラは構えても、一口くれとは誰も言わない。緊迫した空気の中、その一口目を口に運ぶ。。が、これが意外に旨い。おそるべき感性と完成度、色んな意味で楽しめるスポットである。(こばやし)

2018年8月21日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

台湾旅行

先日、夏休みを利用して台湾へ遊びに行ってきました。

久しぶりの海外旅行で、日本から3時間足らずで行けるので気楽に行ってきましたが、空港での色々手続きが変わっていて驚きました。

台湾の入国審査の時は、虹彩(顔)認証+両手人差し指の指紋登録。

台湾出国時は、入国時登録した虹彩(顔)、指紋を確認していました。

 

日本の帰国時も顔認証システムが導入されており、機械の手続きのみで審査が済み、審査官がほとんどいませんでした。(希望しない限り、帰国のスタンプも押してくれませんでした)

IT化の流れを実感し、手続きがどんどん機械化、簡素化されていくのを目の当たりにしました。

 

パスポートもICチップで読み取り情報を確認しているようで、便利は便利ですが、登録した情報(顔や指紋)は一体どこまで利用されるのだろうか・・と不安にもなりました。

 

公的な手続きがIT化されていく流れは止めようもありませんし、実際に非常に便利で間違いも少ないのですが、裁判所や登記手続きはどうなっていくのかしら・・と自分のことが不安になった瞬間でした。

 

2018年8月20日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

報酬(13)

【包括受任事案】と【個別受任事案】とでは、後者の方が司法書士サイドに大きな制約があることが、前回の説明でご理解いただけたでしょうか?
私たち司法書士は、140万円超の民事紛争の依頼を受けた場合、このような制約があることに注意を払い、【包括受任事案】とは異なる事務処理をしなければならないのです。
また、依頼者の目、あるいは外部からの目で司法書士の行った事務処理を検証した場合にも、やはり【包括受任事案】とは異なる事務処理がなされていたと評価されるような仕事をしなければなりません。その評価は、実質面でも形式面でも同じことが言えます。

さて、前置きが長くなりましたが、裁判例の紹介に移ります。貸金業者に対し140万円超の過払金があることが判明した個人が、司法書士に対し返還請求のための裁判です。

140万円超の請求ですから、司法書士は「自分が行った事務作業は【個別受任事案】としての「書類作成業務」の域を飛び出していない」という主張をしています。

これに対して貸金業者の方は「司法書士は実質的には依頼者の代理人として行動していた!」という趣旨の主張をしています。つまり「140万円超の請求であるにもかかわらず【包括受任事案】として事務作業をしたんだ!」という主張ですね。
140万円超の請求では司法書士に代理権がありません。このような請求を代理できるのは弁護士に限られています(弁護士法72条という条文に、このことが明確に書かれています)。つまり、貸金業者側は「司法書士が弁護士法72条違反をしているんだ!」という主張を展開したわけですね。

この事案では、裁判所は次のような事実が存在すると認定しました。
① 司法書士が依頼者の印鑑を預かっていた
② 司法書士が送達受取人(相手方から提出された書類の送付先)に指定されていた
③ 代理人として受任通知を発し、過払金が140万円超であることが判明しても辞任通知を発していない
④ 依頼者の通帳と銀行届出印を預かっていた
⑤ 成功報酬を受領した

通常、過払金が140万円を超えているかどうかは、依頼を受けた時点ではわかりません。貸金業者から取り寄せた資料に基づいて計算した結果、140万円を超えるかどうかが判明します。したがって、依頼を受けた時点では代理人として受任通知を発することは可能ですが、計算した結果140万円超であることが判明すればもはや代理権はなくなりますから、直ちに辞任通知を発しなければいけません(③の論点)。もちろん、代理人として辞任して以後も、依頼者の希望があれば【個別受任事案】として事務処理を継続することは可能です。
ところで、一連の裁判では、提出する書類には同じ印鑑を使用する必要があります。書類を作成する必要があるたびに依頼者と面談して作成内容を決定し、書類ができたら再度その内容を説明して押印してもらうというのが【個別受任事案】としての「書類作成業務」の基本的スタイルであるのに、印鑑を預かっていたのであればそのような過程を経ずに司法書士独自の判断で書類作成がなされていたのではないか(①の論点)。
また、相手方の反論書の送付先が司法書士事務所であることも、依頼者に再反論の必要性を説明せず、司法書士の独自の判断で預かっていた印鑑(①)を利用して書類作成をしていたのではないか(②の論点)、と裁判所は判断したのです。

さらに、⑤の論点では、裁判所は次のような指摘をしています。

「過払金報酬2割の実質は、主として過払金の返還を得たという結果に対する成功報酬であると認められるところ、後者の成功報酬は、法律専門職としての高度の法律的知識を活用し、代理人として専門的・裁量的判断を行うことに対応する報酬というべきものである」(大阪高判平成26・5・29民集70巻5号1380頁)

つまり、【個別受任事案】であるにもかかわらず成功報酬制を採用しているということは、書類作成と対価均衡性を欠き、書類作成との対価均衡性を超過する部分は、代理人(つまり弁護士法72条違反)としての報酬を受領していると評価できるということになるわけです。
現実に弁護士法違反をしていたのかどうかは議論もあるでしょうが、少なくともこの司法書士は、弁護士法72条違反という外観を作出してしまい、外部からも違法行為であるという評価を受けてしまったということになりますね。    (中里)

2018年8月9日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

実務上問題になっている信託契約の内容

民事信託に関しては、まだまだ普及しているとはいえない状況ですが、それでも少しずつ実務的な動きがでてきているようです。

そうした中で、いろいろな契約書の内容のパターンがうわさ話として入ってきます。

不動産の処分を委託者が望んでいたのに、金銭しか組成されていないという初歩的なミスから、受託者の判断により、信託不動産を受託者の固有財産に帰属させることができるという正に受託者のため?の信託契約等々。

中には、信託監督人を定めながら、受託者に一切の指図をすることが権限を与えている場合や、信託条項の中にやたら信託監督人が登場し、何をするにも信託監督人の同意が必要になっている場合等、明らかに信託法における役割分担のバランスを欠いている信託契約が散見されるというのです。

信託は、受益者のために、委託者に託された受託者が、ルールに従いながら自らの責任と判断で信託業務を行うことが基本です。バランスを欠いた信託条項や信託法の趣旨に反した信託条項を含む信託契約は、適正な信託契約とは言えませんので注意が必要です。(ななみ)

2018年8月8日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

台湾の戸籍を取得することはできるのか

台湾の戸籍を取得することは難しい・・・最近調べていくなかで分かりました。

台湾には戸籍制度があります。台湾の戸籍をそのまま日本の不動産登記手続きに使用することはできないとされています。

日本政府は台湾を正式な政府ではない(地域)という立場をとっているため,台湾で発行された書類はしかるべき認証を受けてからでないと日本の登記手続きには使えないのです。

また,司法書士などに認められた職務上の請求などもできません。

日本ではない国や地域の方が当事者となる手続はとても大変だということを思い知らされています。

でも,めげずにがんばりたと思います(モトキ)。

2018年8月7日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

信託の基礎

今回は、信託法2条1項を確認します。

 

2条1項

この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう

 

「財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき」義務を受託者が負う場合が信託であると規定してますから、信託において信託財産は必要不可欠な要素であることが前提となっています。

では、どのような物が信託財産となりうるのでしょうか。「信託法[第4版](新井誠/有斐閣)」(340~342頁)によると、以下の4つの条件を挙げています。

 

1.金銭への換算可能性

2.積極財産制

3.移転ないし処分の可能性

4.現存・特定性

 

1については、人格権や身分権が信託財産になりえないことの裏返しとして定義していると思います。

2は文字通りですが、問題は消極財産はどうなのか、です。通説は含みません。多くの書籍も含まないと記載されているのがほとんどでした。私が目を通した範囲で、「消極財産は信託財産に含まれる」と主張しているのは上記の書籍だけです。

この点、消極財産を信託財産に含めなくても、特に問題はないと私は考えます。

例えば、賃貸マンションを信託財産とした場合の敷金について検討します。賃借人が退去すれば、受託者は敷金を返還する必要があります。このとき、信託財産に消極財産である敷金が含まれているから返還はできないとなるわけではありません。賃貸マンションを信託財産とした際に登記を備えた結果、賃貸人たる地位に付随して受託者が敷金返還債務を承継すると考えれば、受託者が返還することに問題はなくなるはずです。このように、消極財産については、その必要性がないため信託財産としての適格性を認めることはないと考えます。

3は、委託者から受託者への移転等を考えれば当然です。3条にもしっかり規定されてます。

4は、先ほどの2条1項の「管理又は処分」云々から導かれますが、少し注意が必要です。なぜなら、将来債権や集合動産も信託財産になりうるからです。この点、「現存・特定性」から将来債権や集合動産が含まれるか、ついては以下のとおりです。

将来債権というのは、停止条件付債権あるいは期限付債権という点から、現存性について説明は可能です。

集合動産も「この倉庫内の・・・」ということであれば、特定性に問題がありません。

このように、「現存・特定性」という条件には解釈の幅が存在しますが、この条件がないと架空のものを信託財産として認めることになるため、必要な条件になります。(小出)