公開討論をしましょう!

相続法改正は1回お休み。

新件の信託契約書を起案していた際に「叶」のメンバーから次のような指摘を受けました。

指摘を受けた条項は次の条項。
【委託者が死亡した場合、委託者の権利は消滅し、その地位は相続しないものとする。】

条項自体はしばしば目にするものですし、「叶」で起案したモデル契約書にも同文の規定が存在していますが、今回の指摘はこの条項を
【委託者が死亡した場合、委託者の権利は消滅する。】
と修正すべき、というものでした。

説明を受けた時にはなんとなくわかった気になったのですが、今、このブログを書いていても釈然としません。

そこで、この論点を読者の皆さんにもご理解いただくため、ネット上での公開討論をしようと思います。
このブログにはコメントが付くことはほぼありませんので、にぎやかしという意味も込め、まずはご指摘いただいた名波さん、本木さんから、コメント欄に問題の所在を指摘してもらえませんか!

読者の皆さんの参戦もお待ちしています!!  (中里)

「市民と法」へ寄稿

法律雑誌「市民と法」を出版する民事法研究会より、モデル契約書の逐条解説の寄稿ご依頼いただきました。

「叶」のほか、いくつかの契約条項を比較検討する特集が予定されているとのことで、楽しみな内容となりそうです。

本年7月発刊号に掲載予定とのこと。ぜひご購入ください!

(中里)

モデル契約書にご意見をお寄せください!

前回までの分で、モデル契約書のご紹介は完了しました。
事案を積み重ねながら試行錯誤を繰り返す発展途上の契約書ですが、机上の空論ではなく、実務家がプロデュースする地に足の着いた、かつ利用者にとっても使い勝手の良い契約書としてさらに改良を続けていきたいと考えています。

読者の皆さんからの忌憚ないご意見が頂戴できれば幸いです。

(中里)

第17条 報酬②

第17条(報酬)
1 〈略〉
2 信託事務処理代行者を置く場合の報酬は、各専門職が所属する事務所の定めるところによる。
3 信託監督人の報酬は、月額1万円 (税別)とする。

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モデル契約書最後の条文です。
信託手続きに関与する専門家の報酬に関する定めです。

監督機能を強化することによって信託制度への信頼を高める趣旨から専門家を信託監督人に選任することを推奨しておりますが、一方で費用が高額化することは、信託の普及を妨げる要因ともなり得ます。
利用者の利便性を考慮し、信託監督人の報酬は月額て低額に抑えることが求められるでしょう。  (中里)

第17条 報酬

(報酬)
第17条 本信託の受託者の報酬は、定めない。
(以下、続く)

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報酬の取り決めは事案ごとによって異なりますので、金額まで一律に決められませんが、モデル契約書案では受託者の報酬は0ないし実費弁償程度にとどめ、残余財産がある場合に受託者に優先して引き継がせることを想定しています。
信託財産が潤沢な場合、受託者が親族ではない場合、受託者が信託財産の管理をするにあたり事務費・交通費等の定期的かつ相当程度の支出が想定される場合などでは、毎月一定額の報酬支払いを可能としておいてもよいでしょう。

第16条 清算受託者および権利帰属者④

(清算受託者および帰属権利者)
第16条
【再掲】
3 信託終了時の際の残余の信託財産の帰属先 は、■■■■とし、信託終了時に■■■■がすでに死亡している場合は、■■■■(住所・静岡県浜松市・・・)とする。

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残余財産の帰属先を指定しておくことは、遺言と同様の効果があることをご指摘しました。とはいっても、遺言そのものではありませんので「全文・日付・氏名を自書しなければならない」というような、遺言の要式面での規制は受けません。

検討しなければならない最大の問題は、遺留分です。
遺留分とは「遺言がある場合でも最低限確保することができる遺産」とイメージしてください。

たとえば、他界した父親Xの相続人が子A・子Bだけのケース。
Xは生前に「すべてAに相続させる」とする遺言を遺していました。
この場合、Bは遺言では何の遺産も承継できないこととなります。それが故人Xの意思ですから「やむを得ない」と言えばそれまでですが、同じ子供であるA・B間での不公平感は著しいことになりますね。
そこで法律では、相続人に「遺言があっても最低限確保できる権利」を認めており、この場合のBは全遺産の25%に相当する分を、遺言によって全遺産を相続することになるAに対して請求できることとなるのです。

この遺留分の考え方が、信託の場合にも適用されると解釈されているのです。
したがって、残余財産の帰属先を指定する場合には、遺留分を考慮した指定方法を検討しておくか、あるいは遺留分の請求を受けた場合の対応方法をあらかじめ協議しておく等の準備が不可欠となるわけです。  (中里)

第16条 清算受託者および権利帰属者③

(清算受託者および帰属権利者)
第16条
【再掲】
3 信託終了時の際の残余の信託財産の帰属先 は、■■■■とし、信託終了時に■■■■がすでに死亡している場合は、■■■■(住所・静岡県浜松市・・・)とする。

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前回は信託終了時の財産の帰属について概説しました。
皆さん、今日のブログを読み進める前に、再度前回の投稿に目を通してみてください。何かにお気づきになるのではないかと思います・・・
「まるで遺言みたい」と感じた方も少なくないのではないでしょうか?
そうなんです。信託は、必ずしも委託者の死亡によって終了するパターンばかりではありませんが、委託者の死亡が信託終了事由である場合、信託終了時の残された信託財産は、委託者の「遺産」と同視できそうですね。

もっとも、委託者の生前に受託者に所有権が移ってしまっているわけですから、厳密には「遺産」ではありません。しかし、信託契約の際にあらかじめ死亡(=信託終了)時の財産の帰属先を指定しておくことにより、あたかも「遺言」を書いたのと同様の効果を生じさせることができますし、清算受託者は、遺言執行者と同様の役割を担うことになるわけです。

したがって、この条項の起案にあたっては、委託者の真意を十分に理解しなければなりません。また、遺言と同様の効果があるという点から、一定の法的規制も発生します。この点は次回に!  (中里)

第16条 清算受託者および権利帰属者②

(清算受託者および帰属権利者)
第16条
3 信託終了時の際の残余の信託財産の帰属先 は、■■■■とし、信託終了時に■■■■がすでに死亡している場合は、■■■■(住所・静岡県浜松市・・・)とする。

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前々回には「清算受託者の仕事は信託の後始末」というようなことを書きましたが、その最大の仕事は「信託終了時になお残存する信託財産をどう処理すべきか」という点になるでしょう。

とは言っても、残存財産の処理を受託者が自由に決められるわけではなく、契約条項によって委託者から処分の方法が指定されているのが通常です。モデル契約書では、残存財産は委託者が指定する特定の者に引き継がせる内容となっていますが、この点はまさに委託者の意思によりますので、自由に制度設計できます。

たとえば、受託者に残存財産を引き継がせることも可能で、この場合は長年にわたって信託財産の管理を務めてくれた受託者に対する報酬的意味合いが込められることになります。
また、お世話になった施設、信仰する宗教団体や寺社、各種公益団体等に寄付するような条項を設けておくことも可能です。
さらに、信託財産が不動産などの場合、清算受託者に売却させて売却代金を指定の承継人で分配するなどの方法も考えられますね。  (中里)

第16条 清算受託者および権利帰属者①

(清算受託者および帰属権利者)
第16条 信託終了時以後の清算受託者には、信託終了時の受託者を指定する。
2 第6条に規定により信託が終了したときは、清算受託者は、法令の規定に従い現務を終了して清算手続きを行い、信託財産について次項に記載する帰属権利者に引き渡さなければならない。
3  【続く】

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受託者は信託財産の管理人的な性格を有しているため、信託が終了すると、債権債務の清算をしたうえで残余財産をあらかじめ指定された(指定がない場合は信託法の規定による)帰属権利者へ引き渡すことで任務が終了することになります。

会社が解散した場合に清算人が選任され、清算業務と残余財産分配の完了によって法人格が消滅するのと同じイメージです。

清算受託者の仕事は、信託の後始末といったところでしょうか。  (中里)

第15条 信託の計算

(信託の計算)
第15条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から同年12月31日までとし、計算期間の末日を計算期日とする。ただし、最初の計算期間は、本信託の効力発生日からその年の12月31日までとし、最終の計算期間は、直前の計算期日の翌日から信託終了日までとする。
2 受託者は、各計算期間中の信託財産に関する帳簿を作成しなければならない。
3 受託者は、各計算期日の貸借対照表、損益計算書および財産状況開示資料(信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の概況を明らかにしたもの)を作成し、各計算期日から2ヵ月以内に受益者に報告する。
4 本信託が終了したときは、受託者は、前2項の書類を作成し、清算受託者にその事務を引き継ぐものとする。

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信託財産の所有権は受託者に移りますが、受託者の固有財産とは明確に峻別して管理しなければなりません(分別義務)。そうすると、信託財産の集合体は、独立した会計や決算の処理を行う必要が生じます。
そこで信託法では、受託者に会計や決算に関するルールを課しており、15条の規定はおおむね信託法の規定に従って確認的に条文化したものにすぎません。

会計というと大変そうですが、信託財産が現金だけであれば、お金の使徒と支出額、現預金の残高を管理できてさえいればよいわけですので、団体の会計担当者を引き受けるのと同じようなイメージですね。  (中里)