シリーズ 信託の”肝”(19)

信託の説明文を眺めていると、次代、次々代まで見通した資産承継にも対応できるような解説をしばしば目にします。
このようなケースでは、受託者や受益者の死亡や判断能力の減退という事態に備え、第2次、第3次の定めを置いておくのが通常となります。このため、前回ご指摘したように、長期間にわたる関係者の生活環境の変化を見通したプランニングが極めて重要となります。

しかし、よく考えてみると、このような複雑な規定は、法的には何の問題がないとしても、本当に関係者の利益になるのでしょうか?
私の感想としては、委託者の希望をすべて叶えようとするあまり、委託者の独りよがり的な制度設計になっていないだろうかという懸念があります。

あまりに複雑な規定は、委託者の希望に沿う一方で関係者を長期にわたり拘束する結果となるとも忘れてはいけないと思うのです。
Simple is best! も、実は重要な視点だと考えます。    (中里)

シリーズ 信託の“肝”(18)

関係者の将来にわたる長期間の生活環境の変化を見通すことが重要という指摘をしましたが、司法書士の中には、このような作業に長けている者は少なくありません。

というのも、私たちの日常業務のひとつに、多重債務への対応があります。相談者の状況によって、①裁判所を利用しない「任意整理」、②裁判所を利用して元金一部免除後の残金分割払いを基本とする「個人再生」、③全額免除を基本とする「破産」、の3つの選択肢の中から最適な方法をご提案していくわけです。
この時、私たちに求められるのは「相談者の生活再建」という視点です。相談者の職業、年齢、住環境、ご家族の状況、数年先の生活環境の変化(親の介護、子の進学、出産など)に伴う収入減や支出増の予測など、さまざまな要素を想定しながら「生活再建」に資する選択肢を提案することが、法的支援に携わる私たちに求められる責務なのです。

日頃から繰り返しているこのような作業は、信託における制度設計にもとても役立っています!  (中里)

シリーズ 信託の”肝”(17)

「プランニング」という項目の一つとして税の話題が続きましたが、税の話はいったん終了。
今回からは、同じ「プランニング」の観点から、他の話題を書き留めていきます。

私たちが、課税と同じように慎重な注意を払っている点に、信託の終了時まで見通しを立てておくことがあげられます。

民事信託は、内容によっては、長期間にわたって受益者の生活を守っていく使命を帯びることになります。
契約締結から信託終了までの間には、委託者や受託者などの関係人が死亡したり、判断能力が低下して業務が遂行できない事態に陥ったりすることも考えられます。
親亡き後の場合、受益者たるお子さんの障害の状況が悪化することも想定できます。
また、生活環境の変化に伴う受託者の経費、受益者の生活費等のコスト変動にも対応できるようにしておかなければなりません。

信託には、先を見通す力も求められるわけです。 (中里)

シリーズ 信託の“肝”(16)

契約による信託でも、前回ご説明した「遺言信託」と同じように「委託者の死亡によより信託の効果が発生する」という条件付き契約とすることにより、やはり贈与税の適用対象から外れます。

この方法は、一見すると遺言信託と同じように感じますが、契約による信託に変わりはないので、遺言のような厳格な手続きは要求されませんので、利便性に優れています。

税の話題が長く続きましたが、今回で最後(の予定)。
信託にあたって税務面への配慮がいかに重要かということは、税の話題を重ねた回数でご理解いただけると思います。

(中里)

 

シリーズ 信託の“肝”(15)

ここまで、贈与税の非課税枠を活用する方法をご紹介しました。
今回からは、そもそも贈与税が課税される場面に該当しない方法をご紹介していきます。

分かりやすいのは「遺言信託」ですね。
委託者が、生前に信託条項を遺言書に遺しておく方法です。
遺言の効力は、遺言者の死亡によって発生しますので、信託による受益者への財産の移転も、遺言者(=委託者)の死亡が契機となります。
したがって、贈与税ではなく、相続税が適用される場面となるわけですね。

遺言信託の制度については「想い叶う」の第7号で取り上げていますので、バックナンバーもご参照ください。

(中里)

シリーズ 信託の“肝”(14)

贈与税の非課税枠を活用する三つめの方法は「特定障害者扶養信託契約」という制度の利用です。この制度が利用できるためには、いくつかの条件が整わなければなりません。

一つ目に、受益者の条件。
受益者が、重度の心身障害、中軽度の知的障害、2級・3級の精神障害などの認定を受けている必要があります。

二つ目に、委託者の条件。
委託者が、上記の受益者の親族などである必要があります。

三つめに、受託者の条件。
この制度を利用するためには、受託者は信託銀行のような信託業法の規定による登録業者でなければなりません。
したがって、ご家族のどなたかが受託者となることはできません。

非課税枠は、相続時精算課税制度を利用するよりも枠が大きく、障害の程度によって 6000万円 または 3000万円 までの信託財産について、贈与税が非課税となります。

(中里)

シリーズ 信託の“肝”(13)

次に、委託者を受益者としない方法として「相続時精算課税」を活用する方法です。

この制度の詳細は、国税庁の説明に譲ります。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4103.htm

この制度を使えば、一度に2500万円までの資産を贈与しても贈与税がかかりませんので、信託財産の評価額がこの範囲内であれば、委託者を受益者に加える必要はありません。

もっとも、①委託者と受益者の関係が親子、あるいは祖父母と孫のように直系の関係になければならないこと、②相続時精算課税を選択する旨の申告が必要なこと、③この方法で贈与を受けた財産は、委託者が死亡した場合は相続によって取得した財産とみなされ、相続税の課税対象となることなど、注意すべき点が多い制度でもあります。
したがって、ご利用の際には税務の専門家を交えた十分な準備が必要になる点に、ご注意下さい。

(中里)

 

シリーズ 信託の“肝”(12)

年間110万円の非課税枠を利用する方法

この方法を利用するには、最初の受益者を二人にしておく必要があります。
この内の一人は、障害を持つお子さんですが、ここでのポイントは、もう一人の受益者として委託者ご自身、つまりお子さんの将来の生活のために資産を信託しようとする親御さんとしておくことです。

もう一つのポイントは、信託条項の中に「受益者A(お子さん)の受益権の範囲は、委託者が負担する扶養義務の範囲内とする」等の条項を設けておくことです。

信託は、その効力が生じたときに委託者から受益者に財産が移転したものと評価し、受益者に贈与税が課せられますね。
このケースに置きかえれば、お子さんと親御さん自身(委託者)の二人に財産の移転があったと評価されるわけです。
もっとも、委託者自身への移転について贈与税が生じないことは(10)でご説明したとおり。では、お子さんへの財産の移転についてはどうでしょう?

ここで、先の信託条項が生きてくるわけです。
お子さんの受益の割合は「扶養義務の範囲内」、つまり日常生活を送る上での衣食住その他の生活費の範囲内に限られるという意味です。
この条項を置くことにより、お子さんへの財産の移転は年間110万円に収まると考えられ、贈与税の課税が回避できると考えられるわけです。  (中里)

シリーズ 信託の“肝”(11)

その「工夫」は、主にふたつに分けられます。

そのひとつは、贈与税の非課税枠を上手に活用する方法。
もうひとつは、贈与税が適用されないようにする方法です。

「親亡き後」への信託の活用の場合、非課税枠の活用方法としては、① 年間110万円までの「基礎控除」、②「相続時精算課税制度」、③「特定障害者扶養信託契約」の活用が考えられます。

一方「贈与税が適用されない方法」は、契約の効力発生時期に「委託者の死亡」と条件を付するか、あるいは「遺言信託」という方法を利用することが考えられます。

次回以降、ひとつずつご説明しますね! (中里)

シリーズ 信託の“肝”(10)

では、どうしたら贈与税を回避できるか?

答えは実は簡単で「受益者=委託者」とすればよいということ。
信託による実質的な利益は受益者に帰属するわけですが、その帰属主体が委託者本人であれば「財の移転」は生じませんので、贈与税が発生する余地もなくなるわけです。

しかしこれでは「親亡き後の子の生活支援に信託を利用しよう!」という “叶” の目的が達せられないようにも感じますよね?
そこで、もう一工夫必要になるわけです。

さらに続く・・・ (中里)