遺言や相続の手続きが変わります(10)~遺留分はこう変わる!

今般の改正では、遺留分の制度にも影響が生じます。

そもそも「遺留分」とは「遺言が遺されていた場合に、遺言の内容にかかわらず最低限の遺産を取得できる権利」とイメージしていただければ結構です。
たとえば、相続人が子供2名(A・B)の場合に、父親が「遺産は全部Aに相続させる」という内容の遺言を遺していたとしましょう。
たとえこれが故人の意思であるといっても、Bは納得できませんよね。しかし、このケースでは、Bは遺産の1/4について遺留分を有していますので、遺言によって遺産全部を相続したAに対し、1/4の「埋め合わせ」を求めることができることとなり、これを「遺留分減殺(げんさい)請求」と呼んでいます。

なお、遺留分減殺請求は遺言が遺されている場合だけでなく、生前贈与があった場合にも利用できます。

この「遺留分減殺請求」は、実はなかなか理解しにくい制度です。というのも、BがAに対して遺留分減殺請求をした途端(正確には、その請求がAに届いた途端)「自動的に遺言によってAがそうぞくすることとなった遺産(このケースではすべての遺産)がA・4分の3,B・4分の1の共有状態となる」というのが現行民法の考え方なのです。
もちろん、すべての遺産が共有では以後の管理に支障が生じますので、その後にA・Bが協議し、双方納得する形でBに1/4の「埋め合わせ」をすることになります。具体的には、1/4に相当する預金や不動産をBが相続することとしたり、全部Aが相続する代わりにAからBに対して代償金を支払ったりする方法により、解決が図られることになるわけです。

 

この点、今回の改正では「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」という名称に変更し、その性質も大きく変わります。従来の考え方では、遺言や生前贈与による財産が、財産を取得した者(上の例ではA)と遺留分を請求した者(上の例ではB)との共有になると説明しました。
しかし、改正法では、遺留分を侵害する遺言や生前贈与であっても、その財産の所有権は確定的に財産を取得した者(A)に帰属します。一方で遺留分侵害を受けた者(B)は、財産を取得した者(A)に対し、遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができるようになりました。
ここでいう「金銭請求」は「Aが遺言や生前贈与によって取得した財産のうちの預貯金から、遺留分に相当する金銭をBに引き渡す」というものではなく、「遺産である預貯金はいったんはAのものとなり、そのうえでAは、遺産である預貯金とAがもともと持っていた預貯金とを合算し、その合計額からBに対し、Bの遺留分に相当する金銭を支払え」という請求になるわけです。

改正法では、BはAに対し「金銭請求」ができるだけです。したがって、Bが遺産のうちの特定の不動産を相続したいと考えていたとしても、Aは金銭による支払いに応じるだけで足ります。
もっとも、A・B間で、金銭に替えて特定の不動産を引き渡すという「代物弁済契約」を締結することは、もちろん可能です。         (中里)