ご自宅以外に山林や畑などの不動産をお持ちの方が亡くなり、相続登記のご依頼をいただいた際、稀に相続人の方から「自宅の土地建物は相続登記をするけど、畑や山林については別に相続人の誰もが要らない土地なので、相続登記をしたくない(相続人間で誰が相続するかも決めたくない、放置しておきたい)」と言われることがあります。
まず、これについては「一部の遺産についてのみ相続手続きをすることが可能であるか」という点と、「一部の遺産について相続すること自体を拒否できるか」という点に分けて考慮する必要があります。
「一部の遺産についてのみ相続手続きをすることが可能か」については、結論から申し上げますと可能です。基本的には、遺産全部について相続人全員で協議を行い、誰が何を相続するのかを決めるのが大前提です。しかし、遺産が多い場合や協議が難航しまとまらない場合などは、全員の協議が整った遺産のみで遺産分割協議を一旦まとめ、その他の遺産は別途協議を続ける場合があります。
「一部の遺産について相続自体を拒否できるか」については不可能です。相続を放棄する手段として、「相続放棄」という手続きがありますが、この手続きをするとその方が相続人ではなくなるので、遺産の全部を取得できなくなります。
例えば、「A土地は欲しいけど、B土地はいらない」という場合、B土地を他の相続人の誰かが取得することで相続人全員の協議がまとまるのであれば、B土地を相続しないことは可能です。しかし、相続人全員がB土地をいらない場合、B土地の所有権を相続人全員が放棄することはできません。遺産分割協議が整っていない(誰が相続するか決まっていない)遺産は、相続人全員の共有状態となるため、B土地は相続人全員の共有状態となり、相続人が亡くなればその相続人、その相続人が亡くなればそのまた相続人、と延々と相続されていくことになります。
よって、一部の遺産について手続きをしないことは可能ですが、手続きをしなかった遺産については後の世代に引き継がれていくことになります。時間が経てば経つほど解決に時間も労力もかかりますので、後の世代に大きな負担を残すことになります。
また、相続手続きが完了していなくても、固定資産税は相続人が支払う必要があります。しかも固定資産税は代表者1名に全額請求されますので、自分だけの土地ではないのに相続人の1名が固定資産税を払い続けることになります。(他の相続人にも固定資産税を負担してもらうことは可能ですが、自分で他の相続人に個別に請求して取り立てる必要があります)
いらない不動産がある相続人の方には、とりあえず誰が相続するのかを決めてもらい、売却するなり、寄付するなりの手段がないかを考えていただくことになります。