【第8条・再掲】
4 受託者は、委託者の相続人と共同して、 信託不動産について、本信託の効力発生後直ちに所轄法務局に対し、所有権移転登記及び信託の本登記を申請するものとする。この場合の登録免許税その他登記申請手続きに要する一切の費用は、信託財産の負担とする。
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契約も仮登記も済ませておきながら、委託者の相続人の協力が得られないため委託者死亡後の本登記ができないなんていう事態も想定されます。
このような場合には、次のような対処も必要になるでしょう。
① 停止条件付き契約による信託ではなく、遺言による信託を利用する
遺言信託の条項として、遺言執行者の指定をしておきます。
遺言執行者の指定がある場合、委託者が遺言によって信託財産とすることを指定し受託者に引き継がれるべき財産の引渡しは、遺言執行者の権限で行うことができますし、信託の登記申請も遺言執行者が行うことができます。
前回指摘したような相続人全員の協力を得る必要はありませんので、想定されるリスクを回避することができますが、遺言信託の場合には委託者の死亡前に仮登記を申請することは認められていませんので、条件付き契約による信託のように、登記記録に「この不動産は将来信託財産となりますよ!」という公示をしておくことはできません。
② 契約条項に「執行者」の定めを置く【要・検討】
委託者の死亡を条件とする信託契約とよく似た契約に「死因贈与契約」というものがあります。
「贈与契約」は「ただであげる」という約束。
「『死』亡を原『因』とする贈与」なので、「自分が死んだときにただであげる」という約束を意味します。
死亡によって、贈与の効力が生ずるのか信託の効力が生ずるのかの違いはあるにせよ、両者はとてもよく似ています。
ところで、不動産の死因贈与契約の場合も仮登記を利用し、贈与者が死亡するまでの間「この不動産は自分が死んだら●●に贈与する」という登記記録への公示をすることができます。
死亡後に本登記申請をするには、やはり相続人全員の協力を得る必要があるのですが、①の遺言執行者の規定に倣い、契約条項に「執行者」の指定をしておくことにより、相続人全員に代わって執行者から本登記の申請ができるとするのが、登記実務の取扱いです。
そこで、類似した委託者の死亡を条件とする信託契約でも、契約条項で執行者を指定しておき、執行者から本登記の申請ができないか? と考えるわけですが、未だ実例はありませんので【要・検討】としておきます。
なお、執行者の指定をする場合、後日の登記申請の要件を具備するために委託者、受託者のほかに執行者予定者も契約書に署名と実印による押印をし、かつ三者の印鑑証明書を合綴しておくようにしましょう。 (中里)