信託の基礎

次は競合行為です。

競合行為とは、例えば、受託者が信託財産として賃貸マンションを、固有財産としても別の賃貸マンションを所有していたとします。このとき、どちらも空き室があったので賃借人を募集したところ、複数の応募があったとします。この場合、固有財産の賃貸マンションの方から契約を締結してしまうことを競合行為と言います。端的に申し上げると、固有財産と信託財産とが同じ行為について相争う関係を競合行為と考えていただいて結構です。

利益相反同様、このような競合行為は、原則禁止で信託行為に許容の定めを置くことによって行うことができるという規定になっています。

この競合行為について、一つ事例をあげます。図をご覧ください。

図9

 受託者は賃借人との間で、隣接する固有財産・甲土地と信託財産・乙土地を賃料10万円(甲土地6万円・乙土地4万円)とする内容の賃貸借契約を締結しました。数か月後、賃借人から「今月は、苦しいのでとりあえず6万円支払います。」といって6万円を支払いました。この場合、どのように充当するべきなのでしょうか?

多くの方は、単純に債権額に按分して充当すればいいと考えた方がいると思います。その方法が最も公平だと考えるからです。事実、道垣内東大教授の書籍「信託法」228頁にも同様の考え方が示されています。

ところが、沖野東大教授が「条解信託法」251頁で示した考え方は、債権額に按分して充当する方法は競合行為に該当すると主張しています。理由とするところは信託法32条1項です。

 

信託法32条1項

受託者は、受託者として有する権限に基づいて信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならない。

 

沖野東大教授は、6万円を回収したならば、乙土地4万円に充当することができるのに、受益者の利益に反して固有財産のために按分充当させることは、条文の「固有財産の計算」に該当するから競合行為であるということです。

道垣内・沖野のどちらが正しいのかという判断をするだけの見識を私は持ち合わせておりませんが、はっきり申し上げることができるのは、実務に当たっては沖野説の考えで進めていくことが安全だということです。つまり、競合行為に該当すると考えて、競合行為の許容の定めを規定することが必要だということです。この事例でいえば、回収額を債権額に按分して充当するという具合になると思います。(小出)

 

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2018年11月29日 | カテゴリー : 信託の基礎 | 投稿者 : trust