数年前、弊所で遺言書の作成のお手伝いをした相談者の方から、
『A土地を息子に生前贈与することにしたから手続きをお願いしたい』
とご相談をいただきました。
以前作成した遺言書では、A不動産は相談者の死亡後に売却した上、相続人全員で売却代金を分配することになっていました。
今回A土地を息子に生前贈与してしまったら、遺言書の内容を履行することができません。このような場合、遺言書の「A不動産は相談者の死亡後に売却した上、相続人全員で売却代金を分配する」という部分が撤回されたことになります。
遺言書は、何度でも撤回や書き換えが可能ですし、遺言書の内容と矛盾する財産の処分も有効です。
相談者の方に、『生前贈与は可能ですが、遺言書のA土地に関する部分を撤回することになりますが、それで大丈夫ですか?他の相続人のことも考えて遺言書のほかの部分を手直ししますか?』と確認したところ、実は、相談者の方には遺言書作成後に新たに取得した不動産があったり、A土地以外に処分した不動産があったりと財産内容が遺言書作成時と大きく異なっていました。
相談者の方は、遺言書を作成して以来、ご自身の遺言書を見返したことがなかったため、どんな内容の遺言書にしたのか正確に覚えておらず、また、財産内容も変動したので、それぞれの財産が結局どう承継されるのか(遺言書の効力がどのように及ぶのか)よく分からなくなってしまったそうです。
一旦遺言書を作成した場合でも、相続が起こるまでに長い時間がかかる場合も多く、その間に事情が変わったことなどを理由に、遺言書の内容を撤回したいと考え直す場合や、その修正が必要となる場合があります。ただ、遺言の撤回や、その修正方法には決まりごとがあり、法律で定められている方法で撤回や修正を行わないと、その撤回や修正が認められないという危険があります。
遺言書を作成した場合でも、定期的に見直しを行い、過不足がないか確認されることをお勧めいたします。