次に、信託のポイントについて話します。
その前提として、信託の設定方法を簡単に説明します。図1をご覧ください。
信託の設定には3通りの方法が規定されています。一つ目は、委託者と受託者が契約を締結する「信託契約」。二つ目は、委託者の遺言によって設定する「遺言信託」。三つ目は、委託者が受託者を兼ねる「自己信託」です。
最初に、信託は3人の登場人物で構成されると申し上げました。委託者・受託者・受益者です。しかし、この登場人物については、一人二役を兼ねることもできます。「自己信託」のように「委託者=受託者」や委託者が利益を享受する「委託者=受益者」(これを、「自益信託」と言います)という信託もできます。ただ、原則として「受託者=受益者」はできません。受託者は、「他人のため」つまり受益者のために信託財産を所有しているからで、「自分のため」に所有するのは信託ではないからです。
これを、財産管理の面から見ると「他人のため」の信託財産と「自分のため」の固有財産を取り分けておくことが信託において必要であるということが理解できると思います。
このような取り分けを「信託財産の独立性」と呼びます。受託者のもとにある固有財産と信託財産の分別が機能すれば、信託を運営していくことができます。そのことは、「自己信託」が証明しています。「自己信託」とは、委託者が自分の財産の一部を「以後、この財産を信託財産として別扱いする」と宣言するものです。宣言することによって、自分の財産の中で信託財産と固有財産を取り分けるのです。このような取り分けは理論的に可能であると信託法は考えるから、委託者と受託者が同一人物である「自己信託」を認めているのです。
したがって、信託のポイントは「信託財産の独立性」ということになります。(小出)