先日、母親が認知症になり母が所有している不動産を売却することができないので、成年後見制度を利用したいという方の相談を受けました。
色々と成年後見の制度や手続きについて説明し、
『成年後見制度利用後は、本人(母親)の財産は本人(母親)のために使用しなければならないので、家族のために本人のお金を使ったり一時的でも本人のお金を借りることはできない』
とお伝えしたところ、相談者の方が大変驚かれて『それは困る』と言われました。
聞けば、相談者の方の収入だけでは生活を維持することができないため、長年に渡り母親に生活費の一部を毎月援助してもらっている状態で、今後生活費を援助してもらえなくなると生活が立ち行かなくなってしまう、とのことでした。
こういった場合、母親が成年被後見人となった後でも相談者のために生活費を援助できるかは、被後見人(母親)が相談者を扶養する義務があるか否かによります。
援助を必要とする人が本人(母親)の配偶者や未成年の子であれば扶養義務が認められ、母親と同程度の生活を維持できるよう、援助することが可能です。
しかし、援助を必要とする人が配偶者や未成年の子以外の親族の場合、(今回の相談者のようなケース)については、母親が自己の地位相応の生活をしてなお余裕がある場合にだけ、相談者の最小限度の生活が立つ程度の援助をすれば足りると解されています。
したがって、成人に達した子の生活費、教育費などは被後見人(母親)の財産から当然に支出できるものではありません。相談者が病気では働けないなどの事情があれば別ですが、基本的に扶養の義務の範囲や限度は厳格に判断されており、援助を受けるハードルは高いと言わざるを得ません。
相談者の場合、援助が引き続き受けられる可能性は限りなく低いものでした。
この相談者の方は、結果的に援助を受けなくても自身の年金等で生活を維持することができることになりましたが、このように生活費を援助してくれていた方が認知症になって困るケースは少なくありません。
援助をする方が意思表示ができなくなってしまうと、場合によっては援助を受けられなくなってしまうことがあります。
今回のケースの場合、母親が意思能力があるうちに、相談者のために母親の財産を民事信託をしておけば、母親が認知症となった後も生活費を支援することができました。
超高齢化社会の昨今、将来のことを考えて家族のために色々と備えておかれるのも大切だと思います。