次に、信託の要件について話します。信託は財産を受託者に託する財産管理方法を定めたものですから、
①「一定の財産が存在し、それが受託者に帰属すること」
が要件となります。
それから、委託者は何らかの目的で受託者に託するわけですから、
②「信託の目的が定められていること」
も必要です。そして
③「受託者は、信託の目的に従って、信託財産につき、管理・処分など、その目的の達成に必要な行為をする義務を負うこと」
が信託の要件となります。
このように信託の要件を定めた理由は、「固有財産」と明確に区別するためです。例えば、受託者が賃貸マンションを固有財産として所有しているとします。賃貸マンションから得られる賃貸収入は、修繕費用として積み立ててよいし、別の資産(株など)の購入資金に充ててもよいし、遊興費として散財しても問題ありません。なぜなら、「自分のため」に固有財産を所有しているからです。しかし、賃貸マンションが信託財産であれば話は違います。例えば、障害を抱えた子の施設利用料の支払いために賃料収入を充ててほしいという目的があれば、いくら受託者が信託財産を所有していても、遊興費などに費消する、なんてことは当然できません。これは、受託者が「他人のため」に信託財産を所有しているからなんです。このことは、信託法2条1項に規定されてます。「他人のため」に信託財産を所有していることは、信託契約の「信託の目的」に記載される条項ともなります。
したがって、もっぱら受託者の利益を図る目的でなされた信託は、「他人のため」に信託財産を所有しているとは言えませんから、「信託の目的」を失ってます。つまり、信託が有効に成立していないということになります。
一般に信託の目的は、
①受託者が信託事務を行う上での指針となり、その権限の外延を画する機能を有する
と言われています。実は、もう一つの役割として、「自分(受託者)のため」の信託は信託ではないということから、
②信託の存続可能性を判断する基準も併せ持っている
ということを確認しておいてください。(小出)