まず、信託とは何かについて話します。
信託とは、原則として3人の登場人物で構成されています(上図)。この3人の役割を説明すると、委託者は信託のために財産を出演します。その財産を受託者が管理・運用・処分をします。そして、受託者の管理・運用・処分によって得られた利益を受益者が享受します。これが、信託の基本形です。
ここで財産について確認します。委託者から受託者に託された財産を「信託財産」と言いますが、この信託財産の権利帰属主体、もう少し平たく申し上げると、信託財産の所有権は委託者から受託者に移ります。これが信託の大きな特徴です。
そうなると、信託を設定した時点で、受託者は2種類の財産を所有することになります(図2)。1つは、信託によって委託者から移転してきた信託財産、もう1つは、信託以前から自らが所有していた財産(これを「固有財産」といいます)です。
では、受託者はこの2種類の財産について、どのように扱っていけばよいのでしょうか?固有財産については、所有者である受託者が自由にその所有物の使用、収益及び処分することができます(民206)。しかし、信託財産は違います。もともとは委託者が所有していた財産を何らかの目的で受託者に移転したわけです。この目的を、信託法では「信託の目的」と言います。つまり、受託者が信託財産を管理・運用・処分するのは、「信託の目的」を達成するためなのです。受託者は、「信託の目的」を達成するための「義務」を負って信託財産を所有しているのです。
以上のように、受託者は2種類の財産を所有していますが、その取り扱い方が全く異なります。「固有財産」は原則「自由」であるの対して、「信託財産」は「義務」を負うということです。(小出)