【前回の整理】
司法書士が信託関係の受任をするパターンは、主に以下の四つだが、いずれも「個別受任事案」に該当するため、成功報酬制は採用できない。
(1)登記申請のみ
(2)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【信託の内容は当事者らで決定済み】
(3)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【信託を希望しているが内容は未決定】
(4)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【単に「相談がある」というパターン】
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この結論部分に対しては「司法書士は、単に信託契約や登記申請をするのではなく、信託契約締結後の継続的なフォローについて支援します」とか「信託に関する包括的なコンサルティングをします」等の説明によって成功報酬制(例・信託財産の●%を司法書士報酬とする)を採用するケースも散見されます。
ここでは、特に司法書士に信託業務を依頼しようとする方の視点に立ち、冷静に依頼した業務の中身を検討する必要があるでしょう。
つまり「継続的なフォロー」や「コンサルティング」という言葉が意味する業務の中身が何か? という問題ですね。
「継続的なフォロー」となると、信託契約締結後の受託者の信託事務遂行に関する相談に応じたり、必要な書類を作成したりすることが想定できます。これらの事務は、信託契約において信託監督人なり信託事務処理代行者なりの定めをし、司法書士がその地位に就任して業務を担うケースが考えられます。この場合の報酬は、信託契約に定めを置くのが通常です。
このシリーズの冒頭で断ったように、このブログで検討する報酬は「プランニングや契約書作成のための費用、不動産登記申請のための費用など、司法書士が民事信託に関わる際に発生する報酬」を指しますので、信託監督人等の報酬は契約書の定めに委ねておきます。
信託監督人等の定めが契約書にない場合に、司法書士が受託者からこれらの相談に応じる場合、その報酬の出所が問題になるでしょう。信託契約書に定めがないということは、委託者は信託財産から司法書士報酬の支払いをすることを想定していないとも考えられますので、特段の事情がない限り、受託者が固有財産(信託財産ではなく、受託者個人の財産)から拠出すべきでしょう。
また「受託者の相談に応じる」という説明をしながら、実質的に受託者が司法書士にコントロールされているということはないでしょうか? この場合は、別の問題が生じます。
つまり、委託者は「この人に託そう」と考えて受託者を選定したはずなのに、その実質は受託者ではない司法書士のコントロール下に置かれているということになれば、委託者の意思に反することになりますね。また、司法書士が受託者と同視できるような外観が作出された場合「業として受託者となるためには信託業法による登録が必要」という信託業法の脱法的行為と評価される危険もあり、この点には十分な注意が必要になると考えます。 (中里)