私の友人~その1~

私には、ユニークな友人が何人かいます。

その中のAという友人は、高校卒業後、東京にあこがれて上京し、なんとなしに就職してしまいました。

年末やお盆には帰省して顔を合せておりましたので、Aの東京での暮らしには、さほど心配はしておりませんでした。

 

20代半ばごろ、ゴールデンウィークの最終日である5月5日、アパートで暮らしていた私は、午前6時の呼び鈴に目を覚ましました。

「休みの朝っぱらから誰だ?」と思い玄関に出ると、そこには友人Aが、ボロボロな姿で立ち尽くしていました。

「どうしたの?」と声をかけると、「ふられた…」と一言発し、目に涙を浮かべ始めました。

彼女にふられたのは理解できましたが、ボロボロの姿が心配でしたので、再び問い直すと、

「歩いてきた…」と一言。

私は「東京から?」と聞くと、コクリと頷きました。

 

どうやら、彼女にふられて寂しくなり、2、3日ぐらい旅に出ようと歩いていたら、ふと、故郷の友人に会いたくなり、ゴールデンウィークの期間を使って、歩いてきたとのことでした。服がボロボロだったのは、公園などで寝泊まりしたからとのことでした。

 

私は地元の友人たちに声をかけ、Aのために宴を開催し、その日のうちに東京へ送り返しました。この一件以来、顔を合せるたびに「浜松へ戻りたいなぁ」がAの口癖となっていましたが、バブルが弾けた後の就職先は狭き門のため、Aだけでなく、私も含めた友人たちも、実現することはないと考えておりました。

 

そこから数年後、Aから次のような連絡が入りました。「俺、来月で会社辞めるよ。」(続く)(小出)

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