遺言や相続の手続きが変わります(3)~配偶者居住権②

新設された配偶者居住権は、どんな使い方が考えられるのか考えてみましょう。

夫が先に死亡した場合、夫婦の生活拠点であった住宅に妻が継続して居住を希望するケースでは「妻が住宅を相続する」方法が一般的です。この場合の「妻が住宅を相続する」は、法的には「住宅の「所有権」を取得する」という意味です。
このように、住宅の「所有権」を相続した妻には、配偶者居住権は発生しません。自分の建物に別途居住権を生じさせる必要がないからですね。

一方、高齢の妻に不動産を相続させることが管理をしていく上で不都合を来すような事情がある場合や、妻の相続の際に相続登記をしたくない等の理由で、直接子供に相続させるケースも少なくありません。この場合、住宅を相続した子供が、母親に対し住宅を無償貸与することになりますね。
しかし、ここで「私の名義にしておかないとそのうち追い出されるんじゃないか?」という妻の疑念が生まれます。実際、この手の不安はよく耳にします。
こんなケースは、配偶者居住権が活用できる典型例でしょう。住宅の維持管理の都合上、所有権は子供が相続するが、妻は配偶者居住権を取得することにより「死ぬまで無償で居住できる」権利を手にすることができますね。
ちなみに、配偶者居住権も登記記録に公示されます。したがって「妻に居住権がある住宅」という情報は、登記情報によって第三者に対しても明らかになるのです。

また、次のようなケースでも、配偶者居住権の活用が考えられます。たとえば、夫に先立たれた妻に軽度の認知症が発症しており、家庭裁判所から、遺産分割協議についての代理権を付与された保佐人が選任されているというようなケースを想定してください。
このような場合、妻に代わって保佐人が、他の総則人との間で遺産分割協議をすることになりますが、被保佐人である妻の財産の維持管理を責務とする保佐人は、妻の法定相続分に相当する遺産を確保する義務が生じます。
このようなケースでは、住宅の所有権を相続するよりも、配偶者居住権を取得する方が妥当な場合が多そうです。なぜなら、所有権を取得した場合に住宅の修繕等が必要になった場合、その費用は居住者である妻ではなく建物の所有権を相続した子供が負担するうえ、住宅の使用料も無償であることとから、被保佐人の財産を管理すべき保佐人としては無用な支出を抑えることが可能となります。
また、所有権を相続するよりも配偶者居住権を取得したほうが資産的価値は低いです。そうすると、法定相続分を確保するためにさらに現預金を相続することができるため、老後の生計維持費の確保にも資することになるからです。

ほかにも、いろいろなアイディアが湧いてきそうです。施行までにあれこれと考えてみたいと思います。   (中里)

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2018年12月14日 | カテゴリー : 相続法改正 | 投稿者 : trust