今回は、信託法2条1項を確認します。
2条1項
この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう
「財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき」義務を受託者が負う場合が信託であると規定してますから、信託において信託財産は必要不可欠な要素であることが前提となっています。
では、どのような物が信託財産となりうるのでしょうか。「信託法[第4版](新井誠/有斐閣)」(340~342頁)によると、以下の4つの条件を挙げています。
1.金銭への換算可能性
2.積極財産制
3.移転ないし処分の可能性
4.現存・特定性
1については、人格権や身分権が信託財産になりえないことの裏返しとして定義していると思います。
2は文字通りですが、問題は消極財産はどうなのか、です。通説は含みません。多くの書籍も含まないと記載されているのがほとんどでした。私が目を通した範囲で、「消極財産は信託財産に含まれる」と主張しているのは上記の書籍だけです。
この点、消極財産を信託財産に含めなくても、特に問題はないと私は考えます。
例えば、賃貸マンションを信託財産とした場合の敷金について検討します。賃借人が退去すれば、受託者は敷金を返還する必要があります。このとき、信託財産に消極財産である敷金が含まれているから返還はできないとなるわけではありません。賃貸マンションを信託財産とした際に登記を備えた結果、賃貸人たる地位に付随して受託者が敷金返還債務を承継すると考えれば、受託者が返還することに問題はなくなるはずです。このように、消極財産については、その必要性がないため信託財産としての適格性を認めることはないと考えます。
3は、委託者から受託者への移転等を考えれば当然です。3条にもしっかり規定されてます。
4は、先ほどの2条1項の「管理又は処分」云々から導かれますが、少し注意が必要です。なぜなら、将来債権や集合動産も信託財産になりうるからです。この点、「現存・特定性」から将来債権や集合動産が含まれるか、ついては以下のとおりです。
将来債権というのは、停止条件付債権あるいは期限付債権という点から、現存性について説明は可能です。
集合動産も「この倉庫内の・・・」ということであれば、特定性に問題がありません。
このように、「現存・特定性」という条件には解釈の幅が存在しますが、この条件がないと架空のものを信託財産として認めることになるため、必要な条件になります。(小出)