【前回の整理】
司法書士が信託関係の受任をするパターンは、主に以下の四つ。(1)登記申請のみ
(2)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【信託の内容は当事者らで決定済み】
(3)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【信託を希望しているが内容は未決定】
(4)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【単に「相談がある」というパターン】
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以下では、これらの形態が「包括受任事案」に該当するか否かを検討することにします。「包括受任事案」に該当するのであれば、いわゆる成功報酬型の報酬を請求できることになりますね。
一方、「包括受任事案」に該当しないのであれば、司法書士業務は基本的に【書類作成】に収剱される「個別受任事案」に該当することとなりますので、日当や付随する調査業務等は別として、【書類作成】の対価としての報酬請求しかできないこととなります(この点は第6回までで整理済み)。
まず(1)ですが、これは不動産売買や相続に関する登記の依頼を受けるのと何ら変わることはなく、単に「信託」による所有権移転登記の依頼を受けたにすぎません。
登記を必要とする不動産に限って、登記という事務処理の依頼を受けたにすぎず、依頼者の全部または一部の財産管理を包括的にゆだねられているわけではありません。
したがって、(1)は「包括受任事案」には該当しません。
(2)と(3)は「信託」という方針が決まっている点が共通しています。この場合の依頼者の司法書士への希望事項は、「自分たちに適した信託内容・信託条項の提案」(3)、「自分たちが希望する信託条項の作成」(2)ということになります。
つまり、いずれの場合も司法書士に信託財産の管理を委ねたいわけではなく、最終的な目的は「信託契約書」という書類作成にほかなりません(もちろん、ケースによっては契約書ではなく「遺言」を利用することもあり得ますが)。
したがって、(2)(3)も「包括受任事案」には該当しません。
では(4)はどうでしょう?
(4)のパターンの典型的相談内容は「私の財産を・・・のように利用したい。よい方法はあるか?」というものです。この相談内容は、一見すると「私の財産の将来的な管理・運用について、包括的に司法書士にお任せする」という意味合いを含んでいるようにも解せないことはありません。もしそうだとしたら、(4)が「包括受任事案」に該当する可能性もあるということになりますね(もっとも、この場合に司法書士が依頼者の財産の全部または一部を包括的に管理・運用することの委任を受ける点については、他の法律による規制を受ける可能性もありますが、この点はいったん横に置いておきます)。
しかし「よい方法はあるか?」と尋ねる依頼者の真意を「司法書士に任せる」と解釈するのはやや早計でしょう。そう解して然るべき場合もあり得るでしょうが【※】、一般的にはこの場合、「何らかの方法をご提案いただき、必要であればそのための手続きを頼みたい」と解するのが妥当です。
とすれば、依頼者の最終的な目的は「手続き」であり、その具体的な中身は(2)(3)と同様に「契約書作成」なり「登記申請」に収剱されることになります。
したがって、司法書士が信託関係の依頼を受ける場合、どのような受任形態を辿ったとしても、ごく限られた例外【上記※のケース】を除き、その業務は「包括受任事案」には該当せず、いずれも「個別受任事案」に該当すると解することができます。
すなわち、司法書士の報酬体系も、成功報酬制は採用できないこととなるわけです。 (中里)