報酬(完)

18回に亘り、信託業務における司法書士報酬という観点で私見を綴ってみました。

また、報酬を考える場合の前提情報として、司法書士業務の性質についてもややくどいほどに説明を重ねてまいりました。司法書士業務の性質については、依頼を受けた事件が「書類作成型」であるのか「代理援助型」であるのかに大別でき、前者は「個別受任事案」、後者は「包括受任事案」と大掴みできることをご理解いただけたかと思います。

受任事案の性質によって、司法書士報酬の性質が異なることもご説明しました。「書類作成」が委任事務の中心である個別受任事案においては、包括受任事案のような「成功報酬」は発生しないこと、仮に個別受任事案において成功報酬制を採用していたケースがある場合、司法書士の代理権がない事案においてあたかも代理業務を行っているとの外観を作出してしまうおそれがあるから避けるべきであることなど、利用者の皆さんにしてみればどうでもよいような、司法書士業界内部の専門的な議論にまでおつきあいをいただきました。

もとより、このシリーズでご提示した内容は、一実務家の私見にすぎません。本来であれば、立法的にあるいは司法判断なり学者の議論なりによって解決されるべき問題も多分に含まれており、このシリーズで提示した私見も、まだまだ突っ込みどころ満載な感は否めませんが、民事信託をご利用するの皆さんが、司法書士に相談したり依頼をしたりする際の参考となれば、また、司法書士側にとってもご自身の報酬規定を見直すための良い機会となればと考えております。

以上で、このシリーズは終了します。   (中里)

 

2018年10月11日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(17)

最後に、イチから信託を作り上げていくパターン。

事情聴取・関係者への説明 → 起案 → (2~3回繰り返して修正)→ 公正証書の手配 → 金融機関と信託口座開設の打ち合わせ → 登記申請準備 → 公正証書作成・信託口座開設・登記申請 →(必要に応じて)信託監督人業務

概ね、このような流れで手続きが進んでいきます。

このうち、登記申請に関する費用は第1回目の説明と重複します。
公正証書の手配や信託口座の開設に関連する部分は、日当的な報酬+事務作業の対価として、3~4万円。
事情聴取・説明・起案までの作業は30万円(ただし、案件に応じた加算があります)。   (中里)

 

※ 前回も指摘しましたが、金額は中里の事務所における報酬規定です。司法書士に依頼の際には必ず事前に見積もりの確認をしてください。

2018年10月1日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(16)

前回は、信託の登記申請だけを頼まれた場合の司法書士報酬についてご説明しましたが、登記申請だけの依頼を受けるだけでなく、登記申請の依頼に先立って契約書案を示されその内容や登記手続き上の支障の有無などについて助言・確認を求められることも少なくありません。

このような場合、司法書士は提示された契約条項案を精査し、単に登記上の支障の有無を検討するだけでなく、場合によっては「この条項の意味するところが曖昧」「この点は・・・・のような条項を設けておいた方が将来予測される問題を回避できるのでは?」「この条項は、信託法の趣旨に合致しないので削除を検討すべき」など、全面的なアドバイスも含めて対応します。
場合によっては、条項案を起案して当事者に再考を求めるようなことも考えられます。

したがって司法書士報酬には、登記申請だけを頼まれた場合の金額に、以上のような助言・確認(・起案)等の作業に対する対価をオンされます。
ここでオンする金額は、作業内容によってだいぶ幅ができるわけですが、何ら手直しが必要ないような場合で3万円程度、多くのケースでは10万円程度となります。   (中里)

 

※ 前回も指摘しましたが、金額は中里の事務所における報酬規定です。司法書士に依頼の際には必ず事前に見積もりの確認をしてください。

2018年9月20日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(15)

今回からは、具体的な報酬規定を綴ってみます。
ここは「叶」のブログですが、司法書士の報酬は各事務所で定めなければならないことになっていますので、今回から掲げていく数字は中里の事務所に限って適用される金額となることをご承知おきください。

まず、単純なケースとして、登記申請だけの依頼を受けたパターンです。つまり、すでに契約書ができあがっており、あとは登記申請をするだけというケースですね。

この場合、司法書士報酬は登記申請に関する報酬に限定されます。信託の登記は、「所有権移転登記」+「信託登記」の累計が最も多いので、以下、このパターンでお示ししていきます。

具体的な報酬規定は下記の示したとおりです。課税価格というのは「登記すべき土地建物の固定資産評価額の合計」と考えていただければ結構です。
たとえば、固定資産評価額3,000万円の土地と800万円の建物を信託登記する場合の司法書士報酬は約18万円となります(なお、この金額には登記の際に必要な登録免許税額は含みません)。

【報酬規定】

◆所有権移転登記
課税価格が     ☆ 1,000万円まで          43,200円
☆ 1,000万円超~1億円    1,000万円までごとに    + 5,400円
☆ 1億超                                1,000万円までごとに    + 6,480円

◆信託登記      10,800円

◆筆数加算  登記すべき土地建物が1件増えるごとに、+864円

◆信託目録  108,000円

◆そのほか、住民票や評価通知の取得費用、登記事項証明書の交付申請費用などが発生します。

2018年9月10日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(14)

前回指摘のとおり「成功報酬制の採用」は、そのことだけをもってしても「代理行為をしている」という外観を作出することになります。

もちろん「代理権のある行為について代理すること」「代理して依頼者が得た利益に対し成功報酬を受領すること」は何の問題もありません。「代理」という部分は、成年後見や民事信託のような財産管理型の事案については【包括受任】と置き換えた方がこの連載の読者の方にはわかりやすいですね。

しかし、民事信託における「信託財産の●%」という報酬規定は、【包括受任】の性質を持たない民事信託(この点は、過去の連載で繰り返し指摘してきました)の事案では、司法書士の提供する事務との対価均衡性を欠く部分が相当程度存在することとなり、その対価均衡性を欠く部分が「【包括受任】できない事案を【包括受任】している」という評価につながってしまった場合に、140万円超の過払金請求の事案と同様に弁護士法違反なり、信託業法違反なりという違法行為を構成することになるのではないかという懸念につながるわけです。

では、民事信託業務において司法書士報酬をどのように規定すべきかということが次の問題となります。
次回以降は、この点についての試案をご紹介していきます。

(中里)

2018年8月31日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(13)

【包括受任事案】と【個別受任事案】とでは、後者の方が司法書士サイドに大きな制約があることが、前回の説明でご理解いただけたでしょうか?
私たち司法書士は、140万円超の民事紛争の依頼を受けた場合、このような制約があることに注意を払い、【包括受任事案】とは異なる事務処理をしなければならないのです。
また、依頼者の目、あるいは外部からの目で司法書士の行った事務処理を検証した場合にも、やはり【包括受任事案】とは異なる事務処理がなされていたと評価されるような仕事をしなければなりません。その評価は、実質面でも形式面でも同じことが言えます。

さて、前置きが長くなりましたが、裁判例の紹介に移ります。貸金業者に対し140万円超の過払金があることが判明した個人が、司法書士に対し返還請求のための裁判です。

140万円超の請求ですから、司法書士は「自分が行った事務作業は【個別受任事案】としての「書類作成業務」の域を飛び出していない」という主張をしています。

これに対して貸金業者の方は「司法書士は実質的には依頼者の代理人として行動していた!」という趣旨の主張をしています。つまり「140万円超の請求であるにもかかわらず【包括受任事案】として事務作業をしたんだ!」という主張ですね。
140万円超の請求では司法書士に代理権がありません。このような請求を代理できるのは弁護士に限られています(弁護士法72条という条文に、このことが明確に書かれています)。つまり、貸金業者側は「司法書士が弁護士法72条違反をしているんだ!」という主張を展開したわけですね。

この事案では、裁判所は次のような事実が存在すると認定しました。
① 司法書士が依頼者の印鑑を預かっていた
② 司法書士が送達受取人(相手方から提出された書類の送付先)に指定されていた
③ 代理人として受任通知を発し、過払金が140万円超であることが判明しても辞任通知を発していない
④ 依頼者の通帳と銀行届出印を預かっていた
⑤ 成功報酬を受領した

通常、過払金が140万円を超えているかどうかは、依頼を受けた時点ではわかりません。貸金業者から取り寄せた資料に基づいて計算した結果、140万円を超えるかどうかが判明します。したがって、依頼を受けた時点では代理人として受任通知を発することは可能ですが、計算した結果140万円超であることが判明すればもはや代理権はなくなりますから、直ちに辞任通知を発しなければいけません(③の論点)。もちろん、代理人として辞任して以後も、依頼者の希望があれば【個別受任事案】として事務処理を継続することは可能です。
ところで、一連の裁判では、提出する書類には同じ印鑑を使用する必要があります。書類を作成する必要があるたびに依頼者と面談して作成内容を決定し、書類ができたら再度その内容を説明して押印してもらうというのが【個別受任事案】としての「書類作成業務」の基本的スタイルであるのに、印鑑を預かっていたのであればそのような過程を経ずに司法書士独自の判断で書類作成がなされていたのではないか(①の論点)。
また、相手方の反論書の送付先が司法書士事務所であることも、依頼者に再反論の必要性を説明せず、司法書士の独自の判断で預かっていた印鑑(①)を利用して書類作成をしていたのではないか(②の論点)、と裁判所は判断したのです。

さらに、⑤の論点では、裁判所は次のような指摘をしています。

「過払金報酬2割の実質は、主として過払金の返還を得たという結果に対する成功報酬であると認められるところ、後者の成功報酬は、法律専門職としての高度の法律的知識を活用し、代理人として専門的・裁量的判断を行うことに対応する報酬というべきものである」(大阪高判平成26・5・29民集70巻5号1380頁)

つまり、【個別受任事案】であるにもかかわらず成功報酬制を採用しているということは、書類作成と対価均衡性を欠き、書類作成との対価均衡性を超過する部分は、代理人(つまり弁護士法72条違反)としての報酬を受領していると評価できるということになるわけです。
現実に弁護士法違反をしていたのかどうかは議論もあるでしょうが、少なくともこの司法書士は、弁護士法72条違反という外観を作出してしまい、外部からも違法行為であるという評価を受けてしまったということになりますね。    (中里)

2018年8月9日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(12)

11回に亘り、司法書士業務の性質という観点から民事信託に関する司法書士が提供する事務作業を分析し、その対価としての報酬規定の妥当性を検討してきましたが、どのような構成を取ったとしても「信託財産の●%」という報酬規定は、対価均衡性を欠くというのが私見としての結論となりました。

ところで、再三にわたって「対価均衡性」という指摘をしてきましたが、報酬における対価均衡性の観点は、私たち司法書士にとっては実はとても重要な問題なんです。信託から少し横にそれますが、このことを一つの裁判例を取り上げてご紹介したいと思います。

この裁判例は、貸金業者に対し140万円超の過払金があることが判明した個人が、司法書士に対し返還請求のための裁判の依頼をしたことに関するものです。
「過払金」については、最近はよくテレビCMなんかでも話題になっていますので、ここでは説明を省略して先に進めます。

140万円超の請求ですので、この司法書士に代理権はなく「あなたにお任せ!」式の受任はできませんよね。
この場合司法書士は、過払金返還請求訴訟という裁判の「訴状」を作成して裁判所に提出することができます。また、相手方からの反論に対し「準備書面」を作成して裁判所に提出することもできます。そのほかにも、裁判の進行にしたがって提出すべき必要書類の作成と提出ができます。
しかし、これらの書類を作成する際にも「司法書士にお任せ!」ではダメなのです。つまり、どんな裁判にするのか、どんな反論をするのか、法的な構成をどうするのか、どんな証拠を用意するのかなどのさまざまな論点は、司法書士の側から「これでいきます!」「これで大丈夫」と決定することはできず、依頼者から「こういう書類を作成してください」という具体的な書類作成の依頼があって初めて作成すべき書類の内容が確定することになるのです。
とは言っても、依頼者が法的な情報をすべて理解しているわけではもちろんありませんので、前提として司法書士からいくつかの具体的な選択肢が提示されたうえで、依頼者が「これでお願いします」という決定をすることになります。これが【個別受任事案】としての「書類作成業務」の限界とも言えます。

もう少し噛み砕くと、【包括受任事案】では、考えられる選択肢がA・B・Cと三つある場合に、司法書士がその中から「最適なものはAである」と選択できます。【包括受任事案】における司法書士への依頼事項の中心は「どれだけの利益を獲得できるか」にあります(故に、報酬の対価も「獲得した利益」であり、これが成功報酬制の根拠となりますね)。
仮に、依頼者がBを希望しても、その選択が依頼の中心である「最大利益の獲得」に適っていないと司法書士が判断すれば、依頼者の意に反してAを選択することも理論的には成り立ちます。

一方、【個別受任事案】では、考えられる選択肢がA・B・Cとある場合、まずは司法書士から依頼者に対してA・B・Cのそれぞれの選択肢についてその概要や長短所を説明したうえで、依頼者自身がいずれかを選択する必要があります。
【個別受任事案】における司法書士への依頼事項は「書類作成」ですから(故に、報酬も書類作成に対する対価であって、成功報酬制は認められないわけでしたね)、司法書士としてはAが最適であると考えている場合でも、依頼者がBを選択した場合には、司法書士はその決定に拘束されることになるわけです(続く)。   (中里)

2018年7月30日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(11)

次に「コンサルティング」を検討しましょう。
とは言っても、再三指摘のとおり「コンサルティング」の具体的な中身は明らかではなく、筆者の想像をもとに書き進めるしかないわけで、この点は実際とは異なる部分も少なくないと思います。あらかじめご承知おきください。

「コンサルティング」という言葉で筆者が想像するのは、信託の全容を管理し、当事者の選定、信託財産の管理・運用方法や処分方法等をすべて自身の描いたプランにしたがって実現化することを請け負う業務、というイメージです。
極端かもしれませんが、委託者のどのような財産をどのように管理し、運用し、処分するのかは「コンサルティング請負人」の胸先三寸で決まり、受託者は、いわば「コンサルティング請負人」の使者にすぎないというような姿を想像してしまいます。
ここまで極端でないとしても、信託の全容を多かれ少なかれコントロールする立場にある者と位置付けられることができるでしょう。この想像が業務の実態と合致しているのであれば、信託財産を包括的に管理しているように理解できますので、報酬の点だけ見れば「信託財産の●%」という定めも妥当といえなくはなさそうです。

ところで、このような業務は、司法書士法による制約がないのでしょうか?
このシリーズの最初の方で、くどくどと司法書士業務について解説をしてきました。その際に指摘したことの要旨は「司法書士にお任せします!」という依頼の仕方ができるのは140万円以内の民事の紛争に限りますよ、ということでした。
もっとも、司法書士は家庭裁判所から成年後見人などに選任される場合もあり、この場合も包括的な財産管理は可能です。信託における「コンサルティング」の性質は、「140万円以内に民事紛争」よりも「成年後見業務」に近いと言えるでしょう。
しかし、信託財産を包括的に管理すべき立場にあるのは「受託者」であって、「コンサルティング請負人」ではないはずです。「コンサルティング」と称して信託の全容に多かれ少なかれコントロールしたいのであれば「受託者」に就任するか、これが信託業法の規制に抵触するのであれば少なくとも「信託監督人」の地位に選任してもらうべきではないでしょうか?
そうすると、「コンサルティング」という名の下に信託を管理下に置き、「信託財産の●%」という報酬を受領する行為は、やはり信託業法の脱法に該当すると指摘できるように思うわけです。   (中里)

2018年7月19日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(10)

引き続き、信託業務について司法書士が「信託財産の●%を報酬とする」というような成功報酬制を採用することの妥当性について検討します。

信託契約締結後の「継続的なフォロー」や「コンサルティング」という用語でくくられた、司法書士が実際に提供する業務の中身を検証する必要があるというのが前回の指摘でした。「フォロー」なり「コンサルティング」なりが、受託者を司法書士のコントロール下に置くような外観を作出していたとすれば、信託業法脱法の疑いもあるというのが前回のまとめでした。

しかし、信託契約締結に関連する事務作業がひと段落した時点、つまり受託者としての日常の受託業務が回り始めた以降は、司法書士が受託者の相談に応じたり、あるいは信託財産全般のコンサルティング(もっとも、「コンサルティング」の実態が何なのかは未だ明らかではありませんが)をしなければならないニーズがどれだけあるのかは疑問です。

受託者の業務遂行が適正か否かを監督する必要があるならば、あらかじめ信託契約の中で信託監督人の定めを置き、その報酬に関する規定も設けられるはずです。逆に信託監督人の定めがないのであれば、委託者は「受託者の監督」という機能を求めていないと判断できます。受託者自身が「自分の業務遂行に不安がある」ということで司法書士に相談するということは考えられますが、この場合の相談料が信託財産から支出されるのはおかしいですよね。受託者が自身で相談を求めたわけですから、信託財産からではなく、受託者の固有財産から支払われなければなりません。
また、この手の受託者からの相談は、信託契約締結後の個別事情に起因する相談であり、契約締結前にこのような相談が定期的かつ継続的に発生するという事態は想定されていないはずです(仮に想定していたとするならば、それこそ信託監督人の定めをしておくべき事案でしょう)。この際の金額は、各事務所の報酬規程が「相談業務」をいくらとしているのかによりますが、通常は、1時間あたり数千円~1万円程度という価格設定をしているケースが多いように感じます。この点は、各事務所の報酬規程を確認する必要がありますが、単発的相談の積み重ねの対価が「信託財産の●%」というのは、私は均衡性に欠くように感じます。   (中里)

 

2018年7月10日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust

報酬(9)

【前回の整理】
司法書士が信託関係の受任をするパターンは、主に以下の四つだが、いずれも「個別受任事案」に該当するため、成功報酬制は採用できない。
(1)登記申請のみ
(2)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【信託の内容は当事者らで決定済み】
(3)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【信託を希望しているが内容は未決定】
(4)契約書の作成+(不動産があれば)登記申請【単に「相談がある」というパターン】

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この結論部分に対しては「司法書士は、単に信託契約や登記申請をするのではなく、信託契約締結後の継続的なフォローについて支援します」とか「信託に関する包括的なコンサルティングをします」等の説明によって成功報酬制(例・信託財産の●%を司法書士報酬とする)を採用するケースも散見されます。

ここでは、特に司法書士に信託業務を依頼しようとする方の視点に立ち、冷静に依頼した業務の中身を検討する必要があるでしょう。
つまり「継続的なフォロー」や「コンサルティング」という言葉が意味する業務の中身が何か? という問題ですね。

「継続的なフォロー」となると、信託契約締結後の受託者の信託事務遂行に関する相談に応じたり、必要な書類を作成したりすることが想定できます。これらの事務は、信託契約において信託監督人なり信託事務処理代行者なりの定めをし、司法書士がその地位に就任して業務を担うケースが考えられます。この場合の報酬は、信託契約に定めを置くのが通常です。
このシリーズの冒頭で断ったように、このブログで検討する報酬は「プランニングや契約書作成のための費用、不動産登記申請のための費用など、司法書士が民事信託に関わる際に発生する報酬」を指しますので、信託監督人等の報酬は契約書の定めに委ねておきます。

信託監督人等の定めが契約書にない場合に、司法書士が受託者からこれらの相談に応じる場合、その報酬の出所が問題になるでしょう。信託契約書に定めがないということは、委託者は信託財産から司法書士報酬の支払いをすることを想定していないとも考えられますので、特段の事情がない限り、受託者が固有財産(信託財産ではなく、受託者個人の財産)から拠出すべきでしょう。
また「受託者の相談に応じる」という説明をしながら、実質的に受託者が司法書士にコントロールされているということはないでしょうか? この場合は、別の問題が生じます。
つまり、委託者は「この人に託そう」と考えて受託者を選定したはずなのに、その実質は受託者ではない司法書士のコントロール下に置かれているということになれば、委託者の意思に反することになりますね。また、司法書士が受託者と同視できるような外観が作出された場合「業として受託者となるためには信託業法による登録が必要」という信託業法の脱法的行為と評価される危険もあり、この点には十分な注意が必要になると考えます。   (中里)

2018年7月2日 | カテゴリー : 報酬 | 投稿者 : trust