信託監督人の模索

現在、3件の信託監督人に就任しています。
信託の解説書を紐解けば、信託監督人の理論的な説明にこと欠くことはありませんが、実務的な観点から信託監督人としての業務を解説する文献は目にしたことがなく、信託の当事者、ことに受益者にとってどんな業務の進め方、あるいはどんなスタンスが妥当であるのかを、日々模索しています。

参考にしているのは、過去に2件就任したことがある任意後見監督人の業務です。
このときは、数か月に一度、任意後見人から財産管理や身上監護に関する記録の提出を受け、主に書類上で任意後見人の業務の様子や本人の生活状況を確認し、裁判所に対して簡単な報告書を提出するという作業を行っていました。
任意後見人が日々の業務の中で判断に困ることがあれば、メール相談に対応することもあります。
もっとも、このときの任意後見人はいずれも司法書士でしたので、監督人といってもほぼ問題となるような事態はありません。

しかし、3件の信託監督人はいずれも委託者の親族が受託者です。しかも、信託監督人を選任した目的は、受託者が他の親族に対し正々堂々と信託業務を遂行することができるようにしようというニーズに対応するためです。
そこで、受託者にとっては面倒かもしれませんが、少なくとも2カ月にいちど、受託者には関係資料一式をそろえて事務所にお越しいただき、帳簿類や領収書、通帳の動きなどに注意を払いながら30分ほどかけて業務の様子を詳細に伺うようにしています。
また、面談の最後には「信託監督報告書」を発行し、受託者に保管をお願いしています。この報告書には、①前回報告時の管理財産一覧、②報告期間中の収支状況、③今回報告時の管理財産一覧、④高額な支出を伴う際にはその使途、⑤受託者から相談を受け、あるいは受託者に改善・修正を求めた事項、などを記載しています。
後日、親族の皆さんが受託者の業務に疑いの目を持った際にも、業務が適正であったこと、あるいは是正すべき事態に至ったときにどのような対応をしたのか等が一目で確認できるような記録の保管に資するようにと考え、現在のスタイルに到達しました。

私の場合、信託監督人の報酬は、特別な事情のない限り月額1万円。
成年後見制度のような裁判所による監督機能がない信託を、社会の中で信頼に足る制度として認知されるようにすることも、信託に携わる実務家の役割だと考えています。
そこで、できるだけ金額をおさえ、多くの信託で信託監督人制度を導入してもらいたいという希望を持って対応しています。   (中里)

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