公開討論をしましょう!

相続法改正は1回お休み。

新件の信託契約書を起案していた際に「叶」のメンバーから次のような指摘を受けました。

指摘を受けた条項は次の条項。
【委託者が死亡した場合、委託者の権利は消滅し、その地位は相続しないものとする。】

条項自体はしばしば目にするものですし、「叶」で起案したモデル契約書にも同文の規定が存在していますが、今回の指摘はこの条項を
【委託者が死亡した場合、委託者の権利は消滅する。】
と修正すべき、というものでした。

説明を受けた時にはなんとなくわかった気になったのですが、今、このブログを書いていても釈然としません。

そこで、この論点を読者の皆さんにもご理解いただくため、ネット上での公開討論をしようと思います。
このブログにはコメントが付くことはほぼありませんので、にぎやかしという意味も込め、まずはご指摘いただいた名波さん、本木さんから、コメント欄に問題の所在を指摘してもらえませんか!

読者の皆さんの参戦もお待ちしています!!  (中里)

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公開討論をしましょう!」への4件のフィードバック

  1. 東京国税局の質疑やその回答で、質問者が「委託者の地位」という概念を用いました。その地位が本来包摂する各種の権利は消滅したとしても、地位は相続承継することが登録免許税の特例の「要件」になったと考えられます。
    https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/sonota/03/besshi.htm

    名古屋国税局でも、権利帰属者が委託者の地位は取得するけれど、委託者の地位は消滅するというケースで登録免許税の特例の適用可能となっています。
    https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/sonota/181200/01.htm

  2. 本木さん、ありがとうございます。
    こんな質疑応答が存在していたのですね。
    勉強不足ですな・・・

    さて、読者の皆さんの理解を助けるためには、この質疑応答で問題になっている登録免許税法7条2項の説明が必要ですね。
    そもそも「登録免許税」とは、不動産や会社の登記、特許や実用新案の登録、鉱業権や漁業権の登録をする際に、登記や登録の利益を得る者に対して課税される国税のことです。
    司法書士に登記の依頼をされた方は、「報酬が高いなぁ・・・」と思われたこともあるかもしれませんが、司法書士報酬の中には登記の際に必要な登録免許税相当額が含まれているのが通常です。登録免許税を納付しないと登記の処理が進みませんので、私たち司法書士はいただいた費用の中から税相当額を納付しているのです。

    前置きは以上とし、問題となっている同法7条2項の確認をしましょう。7条2項はこんな条文です。
    +++++++++++++++++++++++
    信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合であって、かつ、当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合において、当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人(カッコ書き省略)であるときは、当該信託による財産権の移転の登記又は登録を相続(カッコ書き省略)による財産権の移転の登記又は登録とみなして、この法律の規定を適用する。
    +++++++++++++++++++++++
    つまり、委託者=受益者というシンプルな信託で、委託者の死亡が信託終了事由、信託終了時の権利帰属者が委託者の配偶者や子のような場合という、民事信託ではよくみかけるケースを想定すればよさそうですね。
    委託者が死亡すると、信託は終了し、信託財産は権利帰属者である配偶者や子のものとなります。信託財産が不動産の場合、登記記録には所有権者として「受託者」の氏名が公示されていますので、この不動産が信託終了に伴い配偶者なり子なりに移ったことを公示するため、受託者から配偶者なり子なりへの移転登記手続きをする必要があります。
    この登記申請の際に、登録免許税がどのように課されるかを規定したのが7条2項となるわけですね?

    本木さん、ここまでよい?

  3. 続きです。
    この問題は、不動産に関する信託終了時における登記手続きがどのようになるのか? という点と関係します。

    信託が終了した場合、通常は「信託財産引継」による所有権移転登記の申請をします。
    この手続きにより、信託不動産の所有権は「受託者」から「信託終了時の権利帰属者」へ移転しますが、この際に納付すべき登録免許税は、信託不動産の固定資産評価額の2%に相当する金額とされていますので、登録免許税だけでも数十万円となるケースは少なくありません。

    ところで、委託者=受益者の信託で、信託終了時に委託者が健在であるような場合を想定してみてください。
    この場合、信託不動産の所有権は、信託の登記によって一旦は受託者に移転しますが、信託による受託者への所有権移転効というのは形式的移転と考えられ、実質的には信託の利益を享受する受益者に移転すると考えることができます。
    信託登記を申請する際には、所有権移転登記の際に通常納付すべき登録免許税が非課税とされているのは、このような信託の特徴から導かれます。

    そうすると、信託終了により再び受託者から委託者に所有権移転登記申請をする際にも「実質的な所有者の元へ戻すだけだから納付は不要では?」という考え方ができそうですよね。
    登録免許税法でも、このような場合には7条1項2号で2%相当額の納付をする必要はなく、非課税扱いとなることが明記されているのです。

    では、信託終了時に委託者=受益者であった者が死亡していた場合で、委託者=受益者の相続人が権利義務帰属者となる場合がどうなるか?
    この場合、受益者以外の者であるから7条1項2号は適用されず2%相当の登録免許税を納付しなければならないとなると、相続人には少し酷な気がします。相続人としてみれば『委託者=受益者の「死亡」が信託終了事由に該当し、この結果として不動産の所有権を取得した』という点に注目すれば、一般の「相続」による取得と何ら変わることがないものと評価することができるのではないでしょうか?

    そこで登場するのが、7条2項です。
    7条2項には、このような場合は「相続による移転とみなしなさい!」と書いてあります。
    相続による移転の場合の登録免許税額は、固定資産税評価額の0.4%相当額とされていますので、通常適用される2%と比較して5分の1で足りることになるわけですね。

    以上が、登録免許税法の説明となります。

  4. では、話を条項案に戻しましょう。

    旧)【委託者が死亡した場合、委託者の権利は消滅し、その地位は相続しないものとする。】

    新)【委託者が死亡した場合、委託者の権利は消滅する。】

    と訂正すべきというアドバイスを名波さんや本木さんから頂いたわけですが、旧規定にある「その地位を相続しない」という規定の存在が、登録免許税法7条2項の「相続による財産権の移転の登記又は登録とみなして」という部分に抵触するため【0.4%相当額の登録免許税では足りない】と結論付けたのが、本木さんの指摘してくれた質疑応答における論点となるわけですね。

    そうすると、旧規定のままでは、将来の信託終了時における登記手続きに際して2%相当額の登録免許税を納付しなければならなくなってしまうため、新規定のような修正が必要ということなのですね。

    質疑応答が出ていますので、実務としてはこれを踏襲していく必要があることはそのとおりなのですが、あまりにも技術的すぎる結論という感想を抱いています。

    他の皆さんはどんな感想、ご意見でしょうか?

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