今回の改正は多岐に亘りますが、まずは「配偶者居住権」を取り上げてみましょう。
改正法によって成立した新たな権利で、その概要は次のとおり、短期と長期の二つに分類されています。
相続の相談を受けていると、しばしば高齢の未亡人から「住宅は私の名義にしておかないと子供たちに追い出されちゃう…」なんていう冗談とも本音とも取れる吐露を耳にしますが、新設された配偶者居住権は、このような不安に応えることができる制度だとイメージしてもらえば理解しやすいと思います。
(1)短期配偶者居住権
夫が死亡した場合、残された妻は、遺産分割協議が調うまでもしくは夫の死亡の日から6か月が経過する日までのいずれか後の日まで、住宅に無償で居住を続けることができる権利のことです(改正法1037条)。
もちろん、妻が先に死亡し夫が残された場合も同様ですが、以下では「夫に先立たれた妻」という想定で進めていきましょう。
仮に住宅の所有権を子どもの一人が相続する内容で早々に遺産分割協議が調ったとしても、妻は、半年間は退去を求められることも賃料を請求されることもありません。
「実の親子でこんなことあるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、世の中にはいろんな家族の形があります。たとえば、残された妻は後妻さんで、子供たちはみんな先妻との間の子。後妻さんとは折り合いが悪いなんでいうケースは、容易に想定できますね。こんな場合に、相続開始後少なくとも半年間は住宅に居住を続けられることになりますので、その間に以後の生活を考えることも可能となるわけです。
(2)長期配偶者居住権
夫が死亡し残された妻が、夫の死亡時に夫単独名義の住宅に無償で居住していたときには、妻は、遺産分割協議や遺贈、死因贈与により(長期の)配偶者居住権を取得することができます(改正法1028条)。
この場合の(長期の)配偶者居住権は、遺された妻が住宅に「死ぬまで」居住できる権利です。ちょっとわかりにくいのですが、住宅の所有権は妻以外の相続人(たとえば、子供の一人)が相続し、妻は、他の相続人が相続した住宅に「死ぬまで居住し続けることができる権利(=長期の配偶者居住権)」を取得するという設計になります。
住宅の所有権を相続した妻以外の相続人は、妻に対しこの住宅について、ⅰ)終身無償で居住させる、ⅱ)第三者への譲渡禁止、ⅲ)妻の承諾なく増改築等不可などの制約を受けることとなるのです。
もっとも、遺言や死因贈与のように夫が生前に何らかの意思表示をした場合を除き、妻に長期の配偶者居住権を認めるか否かは、相続人全員の協議によって決められます。そうすると、他の相続人が妻の配偶者居住権を認めないような場合も想定されますね。この場合、妻は家庭裁判所に対し、配偶者居住権を主張して審判の申立てをすることも認められます(1029条)。家庭裁判所は「配偶者の生活を維持するために特に必要がある」と認められる場合、他の相続人が反対していたとしても配偶者居住権を認める審判をすることができることとされており、これによって妻の「終身居住」を確保することができる制度設計となっています。
なお、住宅がもともと夫と夫以外の第三者(たとえば子供)との共有であった場合、共有者にとってみれば後発的事情(共有者である夫の死亡)によって配偶者居住権が発生し、自身の所有権が制限されることになるのは不合理ですので、このような場合には配偶者居住権は発生しないこととされています(同条1項但書)。