信託の基礎

 前回の続きです。

 

図3

 

 右から2番目の矢印のように、受託者は信託財産負担債務を固有財産にて負担するということを説明しました。ところが、「信託財産負担債務を固有財産にて負担する」ことを明確に記した条文は信託法には存在しません。したがって、この点を指摘していない書籍も散見します。しかし、丹念に条文を読み込むと、今、申し上げたことが正しいということが分かります。信託法21条1項と2項です。

 

第21条 

 1 次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。

    (1号~9号略)

 2 信託財産責任負担債務のうち次に掲げる権利に係る債務について、受託者は、信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う。

    (1号~4号略)

 

 1項は「次に掲げる権利に係る債務は、信託財産責任負担債務となる。」と規定しているのに対して、2項は「信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う。」と規定されています。分かりますか?2項は「のみ」と規定しているのです。つまり、信託財産だけが責任財産である債務を2項は規定しています。しかし、1項は違います。「のみ」がないのです。信託財産責任負担債務であっても固有財産で責任を負う場合もあることを、1項と2項の区別から読み取ることができるのです。

 他に破産法244条の7第1項からも読み取ることが可能です。

 

第244条の7 

 1 信託財産について破産手続開始の決定があった場合には、信託債権を有する者及び受益者は、受託者について破産手続開始の決定があったときでも、破産手続開始の時において有する債権の全額について破産手続に参加することができる。

(2項以下略)

 

 この条文から、受託者の固有財産が信託債権にとって責任財産になることを意味しております。

 

 あと、信託法76条も各自調べてみてください。(小出)