前提となるご説明が長く続きましたが、そろそろ本題となる信託の報酬に入っていきましょう。
今までの説明でご理解いただけたかと思いますが、信託に関する司法書士報酬がいくらかという問題を考える場合、信託に関する司法書士業務の性質を考えなければなりません。
つまり、信託に関する業務が、成年後見人に就任したり、140万円以内の金銭の請求を「司法書士にお任せ!」方式で依頼されたりするような「包括受任事案」に該当するのか、あるいは個々の書類の作成や事務手続きの依頼が積み重なっているにすぎない「個別受任事案」に該当するのかによって、司法書士が請求できる報酬の根拠も大きく変わってくることになるわけです。
私たちが民事信託に関する業務の依頼を受ける際の「頼まれ方」には、いくつかのパターンがあります。
(1)弁護士や行政書士などの他の法律専門職が起案した不動産を信託財産に含んだ信託契約書が司法書士事務所に持ち込まれ、「この契約書に基づいて不動産について信託の登記をしてほしい」と頼まれるパターン
(2)当事者や関係者の中に信託に詳しい方がおり、すでに希望する信託のスキームはでき上がっているが、契約書の起案をするスキルがないため、「こういう内容の契約書を作ってほしい」と頼まれるパターン。
(3)相談者らが「自分たちの問題を解決するためには民事信託が適している」という認識をすでに持っていて、「民事信託をお願いしたい」と頼まれるパターン。
司法書士事務所を訪ねる前に、無料の法律相談等で民事信託を勧められたようなケースが、このパターンの代表例ですね。
この場合、司法書士は「そもそも民事信託が適しているのかどうか?」という点から相談者の抱える事情を紐解いていく必要がありますので、まずは時間をかけた事情聴取が必要になります。
次に、伺った問題を解決するために最適な信託のスキームを提案する作業へ移ります。もちろん、この段階で契約条項の起案もあわせて行うのが通常です。
(4)最後に、実はこのパターンが一番多いのですが、相談者は「民事信託」という言葉すら聞いたことがないパターンです。
「相談がある」ということでお話を聞くうちに、「これは民事信託が使えそうだ」と司法書士側から提案をするパターンですね。司法書士の作業としては(3)とほぼ変わりません。
登記申請だけの依頼を受ける(1)のパターンの場合、他の登記の依頼と同じように必要な書類を準備して当事者から印鑑をもらい、法務局に提出すれば作業は完了します。
(2)~(4)の場合も、信託財産に不動産が含まれていれば(1)と同様に登記申請が必要となるのは当然ですが、ほかにも(2)~(4)の場合には、契約書を公正証書とする必要がある場合の公証役場の手配や、受託者名義の信託口口座開設の手配、信託財産たる預貯金を委託者の口座から受託者名義の信託口口座に送金する作業への立会いなどの付随的作業が追加されるのが通常です。
口座の開設や送金は、司法書士が関与しなくても当事者だけで完結するのが本来なのですが、信託口口座の開設にはまだまだ不慣れな金融機関がほとんどですし、信託財産となると高額の資金移動を伴ううえ、委託者は高齢の方も多いため、金融機関の窓口では「何かの詐欺案件?」と警戒されてスムーズに送金できないケースも少なくないため、中里の場合は基本的にこれらの作業に同行するようにしているのです。 (中里)