≪前回の整理≫
司法書士業務は「個別受任事案」と「包括受任事案」に大別できる。
「個別受任事案」における司法書士報酬の対価は【書類作成】である。
「包括受任事案」における司法書士報酬の対価は【依頼者が得た利益】である。
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司法書士の代表的な業務である不動産や会社の登記申請手続きは、相続・売買・住所変更(不動産)、設立・役員変更・増資(会社)など、個々の単発な事象を登記記録に反映させるための【書類作成】ですので、これが「個別受任事案」にあたることはご理解いただけると思います。
依頼者の皆さんにとってとても分かりにくいのは、裁判関係の業務だと思います。
たとえば、ある司法書士が「150万円貸したけど返してもらえない」という相談を受けたとしましょう。依頼者からすれば(報酬の高い安いはいったん横に置くこととすると)「訴状だけ作成して終了」という「個別受任事案」として依頼するよりも、「お任せするから回収に必要な作業をお願い!」という「包括受任事案」として依頼する方がメリットは大きいですよね。
でも、私たち司法書士は、このご相談に対し「包括受任事案」として依頼を受けることができないのです。その理由は、前回の末尾(※)の部分となります。もう少しかいつまんでみましょう。
このご相談は『「150万円」の「貸金の返還」(=民事トラブル)について「交渉や裁判」によって解決したい』という内容です。しかし、「司法書士法」や「弁護士法」という法律により、司法書士が民事トラブルについて依頼者の代理人として(つまり「あなたにお任せで!」,=「包括受任事案」として)交渉や裁判の依頼を受けることができる金額の上限は、140万円なのです。
したがって、このご相談に対し私たち司法書士は、弁護士のように「私がお任せいただいたのですべて私に連絡してください」というような対応はできません。
これをやってしまうと、弁護士法違反により処罰の対象となります。
私たちができるのは、裁判を起こすための「訴状」という書類を作成するという「個別受任事案」としての対応に限定されます。もちろん、裁判が進行するに従って必要となる「準備書面」「証拠申出書」などいろいろな書類を作成しますが、これらはその都度「個別的に」作成依頼を受けることができるにとどまり、「包括的に必要書類をまとめて作成して!」とはいかないのです。
「書類作成の依頼」と「書類の作成」という1対1の関係が複数件積み重ねられるわけですね。
これが「130万円貸したけど返してもらえない」であれば、140万円以内の民事トラブルとなりますので「あなたにお任せで!」(=包括受任事案」)のスタイルで受任できます。
このように、司法書士側の法律上の制約により「お金を返してほしい」という同じご依頼でも、それが150万円なのか、あるいは130万円なのかによって、ご提供できるメニューが異なってしまうことになります。
面倒な話ではあるのですが、この先、報酬のご説明を進めるにあたってこの辺りの情報は不可欠となりますので、理解を深めていただけるとありがたいです。 (中里)