(資金の借入れ等)
第12条 受託者は、次に掲げる費用を支弁するために金融機関から借入れをすることができる。
(1)受益者の医療費、介護費、その他生計を維持するために必要な費用
(2)受益者の日常生活に資するための信託不動産の修繕、改築、改良のために必要な費用
(3)本信託の目的に沿って信託不動産を管理運用するのに必要な費用
2 受託者は、前項の借入れを行う場合、信託不動産を担保に供することができるものとする。
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信託の目的を達成するために必要であれば、受託者は、信託財産の維持管理、受益者の生計維持等のために必要な範囲内で金銭の借入れを行うこともできますし、借入れを受ける金融機関等のため、信託不動産に担保権を設定することもできます。
もっとも、受託者が信託財産のために負った負債は、信託財産だけが弁済責任財産となるのではなく、受託者の固有財産も当然に弁済責任財産となる点には、十分な注意が必要です。
少しわかりやすく説明します。
中里は「株式会社かなう」「合同会社しんたく」という二つの会社の代表者であるとします。
「株式会社かなう」が銀行からお金を借りるとき、中里は代表者として契約書に署名押印するほか、中里個人として連帯保証人にもなりました。
数年後「株式会社かなう」が返済できなくなったとき、銀行が資産の処分を迫ってまで返済を強制できるのは、①「株式会社かなう」と②「中里個人」だけです。
中里が代表を務める別会社「合同会社しんたく」は、「株式会社かなう」の借入れについて連帯保証人になっていない以上、返済義務がありません。
中里を受託者に置き換えましょう。
中里は「中里の固有財産の管理者」という地位と「信託財産の管理者」という地位の二つを有することになりますが、この状態は、上の例のように二つの会社の代表者を兼務しているのと似ています。
ここで、「信託財産の管理者」の地位である中里が銀行から借入れをします。
上の例で考えれば、返済を強制されるのは「信託財産」だけであり、「合同会社しんたく」と似た地位にある「中里の固有財産」は返済不要と考えがちですが、そうではないのです。
受託者として借入れをしたのに返済できなくなった場合、受託者自身の固有財産を処分してでも返済しなければならないわけです。
これを「受託者の無限責任」と呼びます。十分にご注意ください! (中里)