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遺言や相続の手続きが変わります(13)~相続登記、今まで以上にお早めに? ②
【事例】(再掲)
A(父)が死亡し、相続人はX(私)とY(弟)の子供二人のケース。X・Y間で遺産分割協議をし、Aの遺産である甲土地はXが相続することとなったが、相続登記を終えていない状態。ところで、Yには借金がありました。Yに金を貸しているNファイナンスは、甲土地の相続登記が完了していないことに注目し、XやYの代わりにAからXY名義への相続登記を申請したうえで、Yの持分を差し押さえてしまいました。
先行する遺産分割協議で、甲土地はXが相続することとなっていますので、Nファイナンスによる相続登記は無効は?
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(前回の続き)
民法177条では、不動産に関する権利について登記を備えていない者は、他人に対し「自分が権利者である」と主張することができないことを定めています。
このことを法律用語では【対抗要件】とよびます。
事例では、X・Y間の遺産分割協議により甲土地の所有権者となったわけですが、未だ登記を備えていない状態です。
この状態で、Nファイナンスが、前回説明した「代位登記」の手法によってX・Y各2分の1の相続登記を備えたわけです。
ここで、遺産分割協議によりXが相続することになったのに、なぜX・Y共有の登記ができるのかという疑問もあるかと思いますが、X・Y間でどのような遺産分割協議がなされたのかという事実はNファイナンスの預かり知らぬ事実です。
また、相続開始後、相続人間で遺産分割協議が調うまでの間、遺産はすべて法定相続分割合による共有となるとするのが、同じく民法の考え方です。
したがってNファイナンスは、遺産分割協議が調う前の状態である法定相続分割合による、いわば暫定的な状態を登記したことになるわけです。もちろん、このような「代位登記」を誰でも申請できるわけではなく、Nファイナンスのように、甲土地を差押えできるような何らかの債権が存在している必要があることも、前回ご説明のとおりです。
さて、177条に戻りましょう。
Xは、相続により甲土地の所有権という権利を取得しましたが、その登記をしないうちにNファイナンスがX・Y共有の相続登記を申請し、かつYの持分を差し押さえたのですから、登記のないXは、登記を備えたNファイナンスに対し「所有権者は私だ。Y名義の2分の1の相続登記は無効だから、差押えもできない」とは、主張できないようにも思えます。
しかし、現行法では、相続により不動産の権利を取得した場合は、売買や贈与のように他人から権利を取得した場合と異なり、登記を備えていなくても権利の主張ができるものと考えられているのです。
この結論は「相続」の法的性質から導かれます。
「相続」とは、亡くなった方の権利や義務を「包括的に承継」
することと理解されていますが、平たく言えば、遺産に関する亡くなった方の権利や義務は、そのままの状態で相続人に承継されるものとイメージすればよいでしょう。
つまり、甲土地を相続したXは、甲土地の所有権者としては、亡くなった父(A)と同一人物と考えればよいことになるのです。同一人物であるなら、すでにA名義の登記がある以上、これをX名義の登記と読み替えて、X名義の所有権が登記されていると考えればよいということなのです。
したがって現行法では、相続登記を備えていないXが、Nファイナンスに対し「差押えの登記は無効」と主張できるのです。
一方、改正法では、自己の相続分を超える部分については177条の問題と同視するという趣旨の改正が施されます。
すなわち、Nファイナンスの代位登記によるY名義の相続登記は、Xの法定相続分ある2分の1を超える部分ですので、Xがこの部分について所有権の取得をNファイナンスに主張するためには、相続登記を備えていなければならないことになるわけです。
改正法施行後は「相続登記は今まで以上にお早めに!」とアナウンスしなければならない事情を、ご理解いただけたでしょうか? (中里)
終活としての遺言から長生き対策としての民事信託へ
日本公証人連合会のHPによると、1年間の遺言公正証書の作成件数が平成21年で77,878件だったのに対し、平成30年では、110,471件にまで増加しています。いわゆる「終活」という言葉ができたことからもわかるように、ご自身の相続についての関心が高まっています。
そうした中、我々の事務所にも遺言の相談が寄せられることが増えています。相談に来られた方々のお話をお聞きしていると相続に関する関心はあるのですが、長生きされる分、認知症のリスクが高まっていることへの関心があまりないことに気づきます。
財産の名義の方が、認知症になってもご家族の方々が自由に財産の管理をできる、もしくは、やっても・・という方々が意外と多いことに驚いています。
成年後見制度に対するご理解がなかなか進んでいないことも気になるところです。
以前にも書かせていただきましたが、お元気なうちであれば、生前の対策としての選択肢がいくつか考えられるのですが、認知症が進むと成年後見制度のみになります。
成年後見制度はご本人の財産を守る制度なので、管理という面で厚く保護される分、財産の運用という側面では、柔軟性に欠けるところがあります。
人生100年と言われる昨今、ご自身の人生の中で、ご自身の財産に関してどのように考えるのかを早めに検討する機会をお持ちになることをお勧めいたします。
その一つの選択肢として民事信託があります。(名波)
影響を受けた名言(1)
「たとえば軍艦というものはいちど遠洋航海に出て帰ってくると、船底にかきがらがいっぱいくっついて船あしがうんとおちる。人間も同じで、経験は必要じゃが、経験によって増える智恵とおなじ分量だけのかきがらが頭につく。智恵だけ採ってかきがらを捨てるということは人間にとって大切なことじゃが、老人になればなるほどこれができぬ」-坂の上の雲(司馬遼太郎)第2巻子規庵より-
「坂の上の雲」を初めて読んだのは20歳くらいのときだが、そのときに、この言葉に触れて本当の意味ももわからず、感銘を受けたことを記憶している。私は、ときどき、「坂の上の雲」を読み返してはこういった示唆に富んだ言葉を拾い出している。
20歳と今で若干感じ方は異なるが、この言葉にはいつも現状に甘んじてはいけない、固定観念にとわられてはいけない、という強いメッセージを受け取っている。私は、時に経験の奴隷になってしまうことがある。経験は必要だが、経験があれば全てハッピーというものではない。経験から一般化、抽象化することで自分の智恵にする。その他は遠慮無く捨てる。しかし、これが難しい。しかし、難しいと言って立ち止まっていることもできない。最近、私は「初稿」をつくることの大事さを痛感している。まずは何か形にする、そのうえで変形する。立ち止まることなく絶えず動いていることで、智恵にする技術もついてくるのではなかろうか(本木敦)。
認知症
先日、話した認知症の症状である中核症状についてもう少し深く(といってもそれほど深くはないですが)話してみたいと思います。
中核症状の一つに、記憶障害というものがあります。これは、本人や家族が最初に気が付く認知症の症状です。認知症の記憶障害の特徴は、「生年月日(=過去)は覚えているが、自分の年齢(=最近)は答えられない」、「自分が生まれた場所は覚えているのに(=過去)、最近引っ越した現住所(=最近)は答えられない」というように、過去の古い記憶は保たれていますが、最近の記憶が障害されていることであり、その結果、新しいことを覚えるのが苦手になります。
また、同じ記憶でも、自分が実際に経験した出来事に関する記憶(エピソード記憶)や単語や概念などの一般知識に関する記憶(意味記憶)に比べて、楽器演奏など技能や操作に関する記憶(手続き記憶)は比較的保たれていることが多いそうです。(小出)
こば紀行#90 芦ノ湖畔
このコーナーでは、浜松から日帰りで行けるプチ観光スポットをご紹介しています。
第90回目は芦ノ湖畔
3月下旬のとある日曜日、芦ノ湖畔の割と中心、箱根関所跡を少し北に行ったあたりにある、ベーカリー&テーブルというパン屋に入った。10時の開店を待たずして長蛇の列ができている。1階で焼き立てのパンを買い、2階のカフェでドリンクをオーダーし、1階で買ったパンを持ち込み朝食をとる。うまい、うますぎる。ただ、買いすぎた。
目の前には芦ノ湖ののどかな光景が広がる。前日の夜に季節外れの雪が降り、思わぬ雪景色に巡り合うことができた。何度となく来ている中で、雪化粧を施した箱根は初めてだ。澄み切った空と薄っすら残る雪、そこに広がる湖畔の風景を見ながら穏やかに始まる休日、平和だ、平和すぎる。だが、早起きしすぎた、眠い。
もう春とは言え、雪が降るような場所だ。昼前とはいえ空気は冷たい。そんな中、屋外のカウンターテーブルがなぜか満席になっている。開店と同時に競い合うようにその席目掛けて走り出す人達がいて、その行動は理解に苦しんだが、よくよく見ると足湯になっている。なるほど。
ただただ、贅沢な休日の過ごし方だったと思う。(こばやし)
遺言、信託時の注意点
遺言や信託のメリットとして、『自分が財産を遺したい人に遺すことができる』『自分が信頼し管理を任せたい人に財産を託すことができる、信託財産から生じた利益を渡したい人に渡すことができる』という点があります。
このようなメリットがあることから、「自分と血縁関係がある人に財産を承継したいので、遺言(信託)を検討したい」というご相談を頂くことがあります。
よくご相談いただく事例としては、『子に不動産を相続させたいが、子の死亡後、子の配偶者ではなく子の子(相談者からすると孫)は相続させたい』『子に不動産を相続させたいが、子と子の配偶者との間に子供がいない場合、子の死亡後に子の配偶者やその親族に不動産が渡るのを防ぎたい』というようなものです。
このようなご相談に対応するやり方がないわけではないのですが、このような「血縁者重視」の姿勢を鮮明にすると、経験から見て、家族間で深刻な軋轢が生じる場合が多いです。
血縁を重んじるという価値観も理解できますし、誰に財産を残すかは全く所有者の自由です。
しかし、排除された側からすると、遺言者側が思うより非常にショックが大きく、信頼関係が破綻し、場合によっては絶縁状態となることもあります。
遺言者が「不動産は長男に相続させる。この不動産は〇〇家の血を継ぐ者に相続してほしい」と遺言書に書いたことを長男の妻が知り、長男の夫婦関係が悪くなることも考えられますし、同様のケースで、長男が妻をないがしろにするような遺言書の内容に怒り、遺産を拒否する場合もありえます。
遺言や家族信託をする際には、財産を渡さない家族についてどこまで配慮できるか、気持ちを理解してもらえるように説明に努めているかが非常に大切だと思います。
血縁を重んじることを否定する気は一切ありませんが、「他人」「子どもがいない」等の理由で露骨に区別することはできる限り避けた方がよいと思います。
遺言や相続の手続きが変わります(12)~相続登記、今まで以上にお早めに?
これまでも司法書士会では「相続登記はお早めに!」と広報活動を繰り返してきました。長期間にわたり相続登記を放置すると、権利関係が複雑化したり、災害時の普及対策や円滑な公共事業に支障が生じたりするなど、「お早めに!」とお勧めする理由もたくさんありました。
ところで、今回の改正では「お早めに!」がより深刻な問題となります。
次のような設問を例に、改正前後の違いを検討してみましょう。
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【事例】
A(父)が死亡し、相続人はX(私)とY(弟)の子供二人のケース。X・Y間で遺産分割協議をし、Aの遺産である甲土地はXが相続することとなったが、相続登記を終えていない状態。
ところで、Yには借金がありました。Yに金を貸しているNファイナンスは、甲土地の相続登記が完了していないことに注目し、XやYの代わりにAからXY名義への相続登記を申請したうえで、Yの持分を差し押さえてしまいました。
先行する遺産分割協議で、甲土地はXが相続することとなっていますので、Nファイナンスによる相続登記は無効は?
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Nファイナンスによるこのような登記申請を「代位登記」といいます。Nファイナンスのように、相続人の一人に対し債権を持っている者は、代位登記の手法によって相続人に代わって相続登記を申請することができるのです。なお、この場合の相続登記は、法定相続分割合のとおりとなりますので、このケースでは、X・Yともに2分の1となります。
本来ならX単独所有となるべきはずなのに、Nファイナンスによる代位登記によってX・Y共有名義となり、さらにYの持分が差し押さえられて競売にかけられることになってしまっては、Xとしても文句を言いたいところですよね。
皆さんは、この結末がどうなるかわかりますか?
実は、法改正の前後によって答えが変わります。
次回、詳しく解説いたしますので、あれこれと頭をひねってみてください! (中里)
相談(確認)があるということはいいこと。
民事信託の利用のお手伝いをしていると、時々、受託者になられた方から、受託者としての事務処理についてご相談があります。
相談と言っても、受託者の仕事をしっかりと理解されている前提で、確認の意味での相談ですので、適切に運用されていることが確認でき、私としては安心してお答えができます。
また、収益物件がある信託の場合には、ほとんどの場合、税理士さんがサポートされていますので、定期的に専門家の関わりがあるという意味では、チェック機能が働いているとも言えます。
信託財産が組成される場合には、できるだけ信託監督人等が選任されていることが望ましいと私は思います。
民事信託が活用されるようになってまだ歴史が浅いので、大きな不具合は起きていないとは思いますが、本当は、どの信託にも信託監督人が選任される方がより適正な運用が担保されるのかもしれませんね。(名波)
相続登記について(15・完)
これまで登記原因証明情報としての遺産分割協議書の確認について検討してきましたが,遺産分割協議の確認の前提としての相続人の確定についても、遺産分割の内容・相続人の本人確認・意思確認と同程度の司法書士の確認事項といえるのではないかという課題があります。相続人の確定は除籍謄本や戸籍謄本で証明できる事実ではありますが,遺産分割協議の内容を確認するにはその前提として他に相続人がいないことの確認、つまり相続人を確定することが不可欠といえます。
司法書士は遺産分割協議という実体関係の確認を行うと同時に,相続人の確定についても遺産分割の内容・相続人の本人確認・意思確認と同程度の確認をするべきではないかと考えます。
このようにして,遺産分割の内容,相続人の本人確認・意思確認を行って遺産分割協議書の真実性を確保していくべきではないかと考えています(本木敦)
認知症
司法書士には、成年後見専門団体リーガルサポートというものがあり、私も入会しております。先日、リーガルサポート主催の研修があり受講してきましたが、研修内容の一部に、現在、私が連載している「認知症」が取り上げられました。法律職とはいえ、この病気に対する理解は必要不可欠であることをあらためて認識しました。今回も、認知症について話してまいります。
認知症の症状は、中核症状と呼ばれる認知機能障害と中核症状によって引き起こされる周辺症状と呼ばれる非認知機能障害とに大別されるようです。
中核症状とは、認知症そのものの症状であり、全ての認知症の人に起こる症状です。記憶の障害、見当識の障害、判断力・理解力の障害などがあります。
これに対して、周辺症状とは、幻覚・妄想、性格変化などの精神症状と、徘徊、過食、拒食、失禁などの問題行動に分けられます。これらは、人によって差があり、周囲の環境と関連していることもあるようです。(小出)