長期相続登記等未了土地解消作業

最近、土地の所有者が死亡した後も、長期間にわたり相続による所有権の移転の登記等(相続登記)がされず、所有者の所在の把握が困難となり、公共事業に伴う用地取得等に支障を来すなどの、いわゆる『所有者不明土地問題』が顕在化しており,社会的な関心を集めています。

この問題により、自然災害発生後、復興事業を進めたくても一部の土地の所有者が生きているのか亡くなっているのかもわからず、収用ができすに作業がなかなか進まないなどの大きな影響がでております。

 

この『所有者不明土地問題』を解消すべく、国が相続人調査をし、相続人に対し相続登記を促す手続きが現在全国各地で急ピッチで進められております。

ただ、相続開始から長期間経過しているため、相続関係が複雑なものが多く、相続人を全員特定するだけでも相当の労力がかかり、場合によっては様々な事情により相続人を特定することができない事態も想定されております。

また、相続人が全員特定され相続人に対し相続登記を促した場合でも、そういったケースでは相続人が全部で数十人いることが一般的でしょうし、他の相続人と面識があると思えません。

面識がない複数の方々と自力で協議をし、相続手続きを完了させるのは並大抵のことではありません。

 

国も限られた予算の中で何とか『所有者不明土地問題』を解決すべく様々な対策が検討されていますが、私有財産に対し国が直接手を出す、というのは中々ハードルが高いのが実情です。

 

そもそも、なぜ長期間にわたり相続登記がされず、所有者の所在の把握が困難となったのかですが、色々なケースが考えれます。

(1)手続自体を知らない 又は手続に費用がかかるので放置した

(2)相続人間で協議をしないまま長期間経過し、協議をすることが困難になった

(3)相続人間で協議が整わなかった

(4)その土地を所有していたこと自体を知らなかった

 

(2)のケースでご相談を頂くことがあるのですが、「なぜ相続人間で話をしなかったのですか?」と聞くと、「何となく財産の話がしにくくて、そうこうしているうちに相続人が高齢で認知症になった(又は相続人が死亡してしまったので話が余計しにくくなってしまった)」というお答えが多いです。

特に、相続人が配偶者と亡くなった方の親の場合や、配偶者と亡くなった方の兄弟の場合は、関係性から何となく財産の話ができず、そのままになっている方が多いように思いますが、そういったケースでは、生前に遺言書を作成することでスムーズに相続を進めることができます。

また、(3)のケースの場合、相続人間だけでは話し合いが難しい場合、弁護士に頼むのは費用がかかるので止めてしまったという方もいますし、家庭裁判所で調停をしたけど決着がつかなかった、という方もいます。このケースは精神的にも金銭的にも相続人に負担がかかるため、手続き自体をあきらめてしまったという方も少なくありません。

 

ただ、全てのケースに言えることですが、手続きを放置して自然に解決することはありません。次の世代が苦労することになります。

 

では、どうすればよいのか、と聞かれると非常に難しいのですが、揉めないように生前に対策をしておく(遺言・贈与など)、揉めたら早めに専門家に相談することをお勧めします。

 

 

 

2018年12月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

遺言や相続の手続きが変わります(2)~配偶者居住権①

今回の改正は多岐に亘りますが、まずは「配偶者居住権」を取り上げてみましょう。
改正法によって成立した新たな権利で、その概要は次のとおり、短期と長期の二つに分類されています。

相続の相談を受けていると、しばしば高齢の未亡人から「住宅は私の名義にしておかないと子供たちに追い出されちゃう…」なんていう冗談とも本音とも取れる吐露を耳にしますが、新設された配偶者居住権は、このような不安に応えることができる制度だとイメージしてもらえば理解しやすいと思います。

(1)短期配偶者居住権
夫が死亡した場合、残された妻は、遺産分割協議が調うまでもしくは夫の死亡の日から6か月が経過する日までのいずれか後の日まで、住宅に無償で居住を続けることができる権利のことです(改正法1037条)。
もちろん、妻が先に死亡し夫が残された場合も同様ですが、以下では「夫に先立たれた妻」という想定で進めていきましょう。
仮に住宅の所有権を子どもの一人が相続する内容で早々に遺産分割協議が調ったとしても、妻は、半年間は退去を求められることも賃料を請求されることもありません。
「実の親子でこんなことあるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、世の中にはいろんな家族の形があります。たとえば、残された妻は後妻さんで、子供たちはみんな先妻との間の子。後妻さんとは折り合いが悪いなんでいうケースは、容易に想定できますね。こんな場合に、相続開始後少なくとも半年間は住宅に居住を続けられることになりますので、その間に以後の生活を考えることも可能となるわけです。

(2)長期配偶者居住権
夫が死亡し残された妻が、夫の死亡時に夫単独名義の住宅に無償で居住していたときには、妻は、遺産分割協議や遺贈、死因贈与により(長期の)配偶者居住権を取得することができます(改正法1028条)。
この場合の(長期の)配偶者居住権は、遺された妻が住宅に「死ぬまで」居住できる権利です。ちょっとわかりにくいのですが、住宅の所有権は妻以外の相続人(たとえば、子供の一人)が相続し、妻は、他の相続人が相続した住宅に「死ぬまで居住し続けることができる権利(=長期の配偶者居住権)」を取得するという設計になります。
住宅の所有権を相続した妻以外の相続人は、妻に対しこの住宅について、ⅰ)終身無償で居住させる、ⅱ)第三者への譲渡禁止、ⅲ)妻の承諾なく増改築等不可などの制約を受けることとなるのです。
もっとも、遺言や死因贈与のように夫が生前に何らかの意思表示をした場合を除き、妻に長期の配偶者居住権を認めるか否かは、相続人全員の協議によって決められます。そうすると、他の相続人が妻の配偶者居住権を認めないような場合も想定されますね。この場合、妻は家庭裁判所に対し、配偶者居住権を主張して審判の申立てをすることも認められます(1029条)。家庭裁判所は「配偶者の生活を維持するために特に必要がある」と認められる場合、他の相続人が反対していたとしても配偶者居住権を認める審判をすることができることとされており、これによって妻の「終身居住」を確保することができる制度設計となっています。

なお、住宅がもともと夫と夫以外の第三者(たとえば子供)との共有であった場合、共有者にとってみれば後発的事情(共有者である夫の死亡)によって配偶者居住権が発生し、自身の所有権が制限されることになるのは不合理ですので、このような場合には配偶者居住権は発生しないこととされています(同条1項但書)。

相続法改正の施行日が公布されました。

今年の7月に相続法が改正されましたが、その適用開始日(施行日)が11月21日に公布されました。

整理すると・・

1.原則(下記以外):2019年7月1日

2.自筆証書遺言の方式を緩和する方策:2019年1月13日

3.配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等:2020年4月1日

4.法務局における遺言書の保管等に関する法律の施行期日:2020年7月10日

5.民998(遺贈義務者の引渡義務)・民1025但書(撤回された遺言の効力)

:2020年4月1日(債権法改正の施行日)

となるようです。

上記のように、同じ日に法律が改正され公布されたとしても、その施行日がずれることがあります。

今回の相続法で言えば、自筆証書遺言の方式が緩和されたとしても、それと関連する自筆証書遺言の法務局での保管制度の開始については、1年とちょっと間が空くことになります。

我々も、相続の相談に対応するときには、施行日を意識しながらアドバイスをすることが大切となります。(名波)

 

2018年12月4日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

相続登記について(5)

次に我が国の相続登記制度について触れたいと思います。

ご存知かと思いますが、日本の不動産登記制度は登記強制主義をとっていません。

そして、相続登記にも登記義務が課されていません。

このためでしょうか、しばしば相続登記を行っていない不動産を見かけます。

戸籍制度が発達しているので、相続人の確定が割と簡単になるので、相続登記をしなくても問題ないと考える方もいるのかもしれません。

ところが、相続登記が済んでいないまま放置されてしまうと、相続人を確定することが難しくなったり、遺産分割協議をおこなうことができなくなってしまうこともあります。

ここでは、司法書士が遺産分割協議による相続登記にどのようにかかわるべきなのかお話したいと思います。

これ以降は、遺産分割協議により法定相続分と異なる相続登記を行うことを前提にしてお話させていただきます。

(本木敦)

2018年11月30日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

信託の基礎

次は競合行為です。

競合行為とは、例えば、受託者が信託財産として賃貸マンションを、固有財産としても別の賃貸マンションを所有していたとします。このとき、どちらも空き室があったので賃借人を募集したところ、複数の応募があったとします。この場合、固有財産の賃貸マンションの方から契約を締結してしまうことを競合行為と言います。端的に申し上げると、固有財産と信託財産とが同じ行為について相争う関係を競合行為と考えていただいて結構です。

利益相反同様、このような競合行為は、原則禁止で信託行為に許容の定めを置くことによって行うことができるという規定になっています。

この競合行為について、一つ事例をあげます。図をご覧ください。

図9

 受託者は賃借人との間で、隣接する固有財産・甲土地と信託財産・乙土地を賃料10万円(甲土地6万円・乙土地4万円)とする内容の賃貸借契約を締結しました。数か月後、賃借人から「今月は、苦しいのでとりあえず6万円支払います。」といって6万円を支払いました。この場合、どのように充当するべきなのでしょうか?

多くの方は、単純に債権額に按分して充当すればいいと考えた方がいると思います。その方法が最も公平だと考えるからです。事実、道垣内東大教授の書籍「信託法」228頁にも同様の考え方が示されています。

ところが、沖野東大教授が「条解信託法」251頁で示した考え方は、債権額に按分して充当する方法は競合行為に該当すると主張しています。理由とするところは信託法32条1項です。

 

信託法32条1項

受託者は、受託者として有する権限に基づいて信託事務の処理としてすることができる行為であってこれをしないことが受益者の利益に反するものについては、これを固有財産又は受託者の利害関係人の計算でしてはならない。

 

沖野東大教授は、6万円を回収したならば、乙土地4万円に充当することができるのに、受益者の利益に反して固有財産のために按分充当させることは、条文の「固有財産の計算」に該当するから競合行為であるということです。

道垣内・沖野のどちらが正しいのかという判断をするだけの見識を私は持ち合わせておりませんが、はっきり申し上げることができるのは、実務に当たっては沖野説の考えで進めていくことが安全だということです。つまり、競合行為に該当すると考えて、競合行為の許容の定めを規定することが必要だということです。この事例でいえば、回収額を債権額に按分して充当するという具合になると思います。(小出)

 

2018年11月29日 | カテゴリー : 信託の基礎 | 投稿者 : trust

こば紀行#78 養老の滝

このコーナーでは、浜松から日帰りで行けるプチ観光スポットをご紹介しています。

第78回目は紅葉編2018、養老の滝

こば紀行紅葉編、今回は岐阜県養老の滝。浜松から鈍行列車で大垣まで行き、大垣からは養老鉄道に乗り換え7駅で着く。駅を降りると西側一帯は養老公園が広がっている。養老の滝はその1番奥、駅から距離にして約2キロ、時間にして登り坂を約40分歩いたところにある。

養老の滝に行くまでの所に「養老天命反転地」と呼ばれるテーマパークがある。世界的に有名なアーティストである荒川修作とマドリン・ギンズの構想による公園施設で、施設全体が1つのアート作品であり、人間の持つ視覚的な錯覚を体全体で楽しむ造りになっている。入場料750円、園内は基本的に家族連れやカップル、若者の群れが多く、間違いなくおっさんの1人歩きは辛い。雰囲気はどことなく箱根彫刻の森美術館に似ている(こば紀行#63参照)。あの頃はほんとによかった。。

さて、目指すは養老の滝。天命反転地から1.9キロ、テクテクひたすら歩く。小川沿いをゆるやかに登りながら歩く道中は、もみじのトンネルに覆われて、道行く人々を魅了するのだろうが、私が訪れた11月11日現在、このトンネルは真っ青だ。きっと、この記事がアップされる頃の週末あたりが最高なはずだ。

大した目の保養もなくゼーゼー言いながら歩き続けること30分、ついに目的地の養老の滝に辿り着く。苦労して辿り着いた割にはショボい滝だ。そして、お約束で自撮り棒を持った中国人観光客がはしゃいでいる。これなら白倉峡(こば紀行#72参照)の方が良いのではないかと思うが、きっと紅葉の最盛期であれば素晴らしいに違いない。着いて初めてここまで歩かずとも養老の滝すぐそばにも駐車場があり、わざわざ下からゼーゼー言わなくても済むことに気付いたのだが、秋の風情を楽しみながら散策したい方、私のようにドMの方には下から歩いてくることをオススメする。(こばやし)

 

2018年11月28日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

相続による土地の所有権移転登記に対する減税措置

不動産の名義を変更するには『登録免許税』という税金がかかります。相続で名義を変更する場合、不動産の固定資産評価額の4/1000にあたる登録免許税が必要です。

例)土地の固定資産評価額1000万円×4/1000= 登録免許税 金4万円

 

平成30年度の税制改正により、相続(相続人に対する遺贈も含みます)によって土地の所有権を取得した場合、所有権移転登記に対する登録免許税に以下のような免税措置が設けられました。

1)相続により土地の取得した個人が登記をしないで相続した場合

例)土地の名義が祖父の場合で、祖父(死亡)⇒父(死亡)⇒息子と相続登記を申請する場合

祖父⇒父への相続登記は土地については非課税となります。

※ 父⇒息子への相続登記については課税されます。

2)不動産の価格が10万円以下の土地で、法務大臣が指定した土地を相続する場合は非課税

 

現在、相続未了のまま放置された不動産が全国に多数あり、大変な問題となっております。

政府としても、速やかに相続手続きを完了してもらうよう様々な対策をしております。

相続は放置しても解決することはありません。むしろ相続関係が複雑になり、費用もかかりますし解決が困難になる一方です。

 

長年放置している相続手続きがある場合、この機会に手続きを進められてはいかがでしょうか?

(※ 免税になるかどうかは、対象土地がわかるものや相続関係がわかるものをご持参のうえ、お近くの司法書士にご確認ください。)

2018年11月27日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

遺言や相続の手続きが変わります(1)

新シリーズに突入しましょう!

テーマは「相続法の改正」。
相続や遺言に関する手続きがいろいろと変わります。
従来の制度がより使いやすくなったり新しい制度ができたりと、実務上もあれこれ影響が出てきそうです。

「叶」(かなう)は、民事信託の研究グループですので「相続法は関係ないのでは?」と思われるかもしれませんが、「委託者の死後における財産の有効活用」は民事信託における大きなテーマのひとつですので、民事信託を攻略するためには相続法への深い理解は不可欠なのです!

とはいっても、今回の相続法改正はとても多岐に亘っています。
また、専門的な議論を伴う改正点も多数存在します。
そこで次回以降、改正論点をかいつまんでご紹介していきたいと思います。

新シリーズにご期待ください!! (中里)

2018年11月22日 | カテゴリー : 相続法改正 | 投稿者 : trust

「意思能力」の問題は、株式の信託も不動産の信託も一緒ですよ。

相談をお受けしていると「信託契約は、お元気なうちしかできませんよ」と申し上げるときがあります。相談者が成年後見制度と民事信託の違いを勘違いされているときです。

意思表示などの法律上の判断において自己の行為の結果を判断することができる能力を意思能力といいますが、意思能力がない中での契約は無効となります。つまり、そのような状況では、契約である民事信託の活用はできないことになります。

ご本人の判断能力(意思能力)の問題になってきたときには、選択肢としては成年後見制度の活用になります。

最近では、土地や建物の売却や賃貸物件の管理をお子さん等に託すために、お元気なうちに民事信託の活用を検討される方々が少しずつ増えてきている感じがしますが、一方で、そういう方々に、「会社の経営における議決権の行使や株式の譲渡も、同じ意思能力の問題ですよ」とお話しても、「会社の方は、そうなったら考えます」という方が多いことに法律に携わる者としての無力感を感じるときがあります。

特に、身内以外の株主がほとんどいない中小企業の経営者の方々にとっては、会社の中での意思能力の問題は、あまりピンときていないようです。

会社経営こそ、成年後見人では代わることができない意思決定の連続なのですがね。

中小企業のリスク管理にもっと積極的に関わっていく必要性を感じています。(名波)

2018年11月21日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust

相続登記について(4)

次に相続人の確認方法です。

◎フランスには日本のような戸籍制度がないため、相続関係に関しては公証人が調査します。また、公証人は遺言の作成、保管、遺言執行も行います。

◎ドイツでは原則として遺産裁判所が相続人の確認を行います。遺産裁判所が発行する相続証明書によって相続関係が証明されています。相続登記の申請にも裁判所による相続証明書が必要となります。

◎韓国では相続人の確認は法務士が調査した証明書類をもとに、登記機関である法院が行います。

◎台湾は、戸籍制度も採用しているため、相続人の調査方法は日本と同様である。相続人の確認は登記機関である地政事務所(行政官庁)が行います。

(本木敦)

2018年11月20日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : trust