よくある相談

知り合いの金融機関から相談がありました。相談内容は以下のとおりです。

「とあるお客さんが、自分の祖父の土地で使っていない土地があるから、その土地に住宅ローンを組んで家を建てようと計画しています。ただ、金融機関としては、土地の所有者に住宅ローンの保証人になってもらったり、土地を抵当に入れてもらわないと住宅ローンを貸せないのですが、祖父は認知症らしいのです。裁判所で祖父の後見人を選任すれば、祖父に住宅ローンの保証人になってもらったり、祖父の土地を抵当に入れられますか?(そうしないと孫が家を建てられないのですが・・・)」

超高齢化社会に突入し、この手の相談を頂くことが非常に増えました。祖父母や両親が所有している土地に自宅を建設する方は非常に多く、土地資金がなくても家を建てられることが自宅を建設する上で大きなメリットとなっているのだと思います。

認知症になり自分で手続きできなくなった方の場合、後見人を選任されると、その後見人が裁判所の監督の下、財産を管理したり、契約手続きを行うことになります。しかし、後見人だから何でもできるわけではなく、『本人(認知症の当事者)のための財産管理であること』、『現状維持』が原則となります。この『本人のため』という点については厳格に考えられており、家族全体の幸せとは明確に区別されて考えられます。その手続きを行うことにより、どれだけ本人にメリットがあるのかを説明できない限り、後見人として手続きを進めることはできません。

今回の場合でヒアリングしたところ、建築予定の自宅に祖父は住まず孫のみが住む家であり、祖父は土地を無償で使用させるのみ。なおかつ孫の保証人になったり土地を抵当に入れるというもので、とても祖父にとってメリットがあるものではありませんでした。このようなケースでは、祖父の後見人を選任してもらったとしても、当初の目的である「家を建てるための保証人になってもらう(土地を抵当に入れてもらう)」のは非常に困難です。

こういった事案でも、祖父が元気なうちであれば、喜んで協力してくれることが多いと思いますが、認知症となり意思を表明できなくなってしまってからでは、どうすることもできません。高齢化がさらに進めば、このような相談は増え続けると思いますので、事前の対策の重要性を感じました。

事例検討会

 数年前から、浜松市周辺の地域包括支援センターの職員さんや福祉関係の相談員さんを招いた事例検討会を開催しています。

ご存知の方も多いと思いますが、地域包括支援センターは概ね中学校区にひとつ設置されており、地域内に暮らす高齢者の日常生活の支援に従事しておりますので、日頃から高齢者が抱える借金、成年後見、悪質商法トラブルなどの法的問題を察知できる立場にあります。そこで、毎回テーマを設けてさまざまなトラブルを法律や裁判手続を利用していかに解決に導くかという視点で意見交換をしています。

 私たちからの情報提供だけでなく、私たちが参加者の皆さんから勉強させてもらうことも多いほか、互いに相談者を紹介し合うことにより早期の問題解決にも役立っています。

 前回の事例検討会の出席者からは、次のような相談が寄せられました。

「自宅で独居生活をされている70代の男性の件。まだ頭も体もしっかりされている方とのこと。子供は男二人でいずれも市内で暮らしています。このうちの長男から地元の地域包括支援センターに『二男が父の預金を使い込んでいる』『父の言動からは虐待の事実も察せられる』との相談が持ち込まれたようです。地域包括支援センターとしては、虐待が事実であれば対応することができますが、預金の使い込みについては、父親の判断能力がしっかりしている状況にあっては対応の仕様がない」とのことで、困惑されておりました。

 このようなケースは、しばしば耳にしますよね。

 後見制度では対応できないケースですが、このブログの読者であればすぐに「信託」の利用を思い浮かべることでしょう。

 そこで、次回の事例検討会では、まだまだ一般にはなじみの薄い(というか、全く知られていない)信託の概要と活用例をご紹介し、元気な高齢者の財産管理にご活用いただこうと考えています。

 このような取組みを通じて、少しずつ実績が積みあがっていくことを期待しています。

(中里)

認知症患者の保有財産

 今年は、相続法の改正もあり、相続や財産管理のセミナーが多く開催されています。私が講師をお受けするときに必ずお伝えする数字があります。認知症患者の増加のデータと今回ご紹介する認知症患者の保有財産の額です。すでに相当な金額になっているようですが2030年には215兆円に達するようです。GDPの4倍の額といわれています。
 このままでは、日本の経済にも影響を及ぼすと思います。
 だからこそ、お元気なうちに、民事信託等で財産の運用を次の世代に託しておくことが重要となると私は思っています。(名波)

 

後見制度について(2)

後見組織の形成は、たとえていうならば、自己の福祉を目的とする新たな会社を設立するようなものです。
どういうことかといいますと、株式会社では、株主の意思を尊重しつつも、取締役や監査役が実際の企業経営を行うように、
後見組織では、本人の意思を尊重しつつも、後見人が実際の財産管理・運用を行うことになります。
複雑なガバナンス(企業統治)のしくみを備える会社と同様に、後見のしくみは、相続に劣らず複雑であり、難解といえます。その難解さゆえに、その利用の仕方を一歩間違えると本人の福祉をかえって悪いものにしてしまうこともある制度ともいえます。 (本木敦)

伊豆の国市 被災者相談会開催のお知らせ

台風19号に関して被災された方を対象に、伊豆の国市で以下の要領で相談会を開催します。

日時:10月30日(水)、31日(木)9:00~15:00

場所:伊豆の国市役所 伊豆長岡庁舎3階

相談員は、弁護士、司法書士、行政書士、建築士、公認会計士、技術士、土地調査家屋士、社会保険労務士です。 私も相談員として両日伺います。お知り合いに伊豆の国市にお住まいの方がいらっしゃったら、ぜひ教えてあげてください。(小出)

こば紀行#98 信州縦断①

このコーナーでは、浜松から日帰りで行けるプチ観光スポットをご紹介しています。

第98回目は信州縦断

前回までのあらすじ~最近、若干人生に疲れ気味のこばやしは、金曜の午後に職場放棄し、下部温泉で自分の殻に閉じこもったあと、ほんとの自分を求めて野辺山高原までやって来た。

涼しい。この景色を眺めてるだけで癒される。夏の高原は素晴らしい!この一言に尽きる。標高1345M、JR駅で最も高い位置にある野辺山駅を出ると雲ひとつない真っ青な空と、正面にそびえる八ヶ岳の風景が眼前に広がる。駅前でレンタルしたチャリで、2時間野辺山高原をひた走る。目指すは高原牧場のソフトクリームだ。

道は八ヶ岳の方向に向かって緩やかな登り坂になっている。辺り一面に広がるレタスだかキャベツ畑の中にポツンと一見この風景には似つかわしくないパラボラアンテナが立っている。ここ野辺山高原には、電波天文学の国際的な拠点の一つである国立天文台野辺山宇宙電波観測所が置かれている。そういえば、私の業界には宇宙人並みの電波(発言、メッセージ)を放つ人達が非常に多いのだが、このアンテナのような受信力(感受性、言語力)を身に付けねばと密かに決意する。

たぶん平地で食べたら普通のソフト

高原チャリ走はソフトクリーム牧場めがけて爆走する。JR線路の最高地点も駅からチャリ圏内にある。時間さえあれば半日は走っていられるほどに快適だ。そして、目的のソフトクリーム牧場にたどり着く。パット見平凡なソフトだが、牛のお乳をふんだんに盛り込んだ(はずの)濃厚な味わいだ。加えて、牧場の雰囲気と真昼なのに気温24℃の涼やかな空気の中で食べるそれは死ぬほどうまい。これにて、今回の旅の目的はほぼ達成された。(つづく)  

台風

先日、超大型台風が日本を襲いましたが、皆様ご無事だったでしょうか?浜松市は停電や断水、冠水などの被害もほぼなく、大過なく乗り切ることができましたが、全国的には大きな被害がでており、今後の作業にかかる時間や費用、手間は大変なものと思われます。

実は、私はとある方の成年後見となっているのですが、その方の自宅の屋根が台風前の強風の日に飛んでしまい、工事をお願いしていました。そうしたら何と工事施工予定日に台風が直撃し、工期が伸びてしまいました。応急処置はしていただいてあったものの、台風で家が傷んだりしたらどうしよう、、と思うとハラハラしました。結果、特段の被害もなく工事の方も無事に完了し、安心しました。

ここで気づいたのですが、家の所有者が認知症で成年後見制度を利用していない方の場合、復興作業は一体どうなるのでしょうか?厚生労働省の2015年1月の発表によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人ですが、成年後見制度の利用者は約21万人(平成29年12月末日時点)と非常に少ないのが実情です。家族が認知症だけど、普段の生活にはあまり支障がないので成年後見制度を利用していない方が多いのではないかと思われます。ただ、自宅が大きな被害を受ければ、多額の預金の引き出しが必要になったり、保険金の請求をしたり、場合によっては自宅の処分をしなければならない場合もあります。その時になってから成年後見制度を利用することもできますが、申し立ててから審判が下りるまでに1~3か月程度かかるのが一般的なため、その期間中は手続きが止まってしまうことも考えられます。

生活が懸かる問題なので、迅速な対応が必要になりますが、被災してから申し立てるのでは、迅速な対応ができません。高齢者の財産管理については、何か問題が発生してから対応するのは遅いのだな、と実感しました。

信託監督人の模索

現在、3件の信託監督人に就任しています。
信託の解説書を紐解けば、信託監督人の理論的な説明にこと欠くことはありませんが、実務的な観点から信託監督人としての業務を解説する文献は目にしたことがなく、信託の当事者、ことに受益者にとってどんな業務の進め方、あるいはどんなスタンスが妥当であるのかを、日々模索しています。

参考にしているのは、過去に2件就任したことがある任意後見監督人の業務です。
このときは、数か月に一度、任意後見人から財産管理や身上監護に関する記録の提出を受け、主に書類上で任意後見人の業務の様子や本人の生活状況を確認し、裁判所に対して簡単な報告書を提出するという作業を行っていました。
任意後見人が日々の業務の中で判断に困ることがあれば、メール相談に対応することもあります。
もっとも、このときの任意後見人はいずれも司法書士でしたので、監督人といってもほぼ問題となるような事態はありません。

しかし、3件の信託監督人はいずれも委託者の親族が受託者です。しかも、信託監督人を選任した目的は、受託者が他の親族に対し正々堂々と信託業務を遂行することができるようにしようというニーズに対応するためです。
そこで、受託者にとっては面倒かもしれませんが、少なくとも2カ月にいちど、受託者には関係資料一式をそろえて事務所にお越しいただき、帳簿類や領収書、通帳の動きなどに注意を払いながら30分ほどかけて業務の様子を詳細に伺うようにしています。
また、面談の最後には「信託監督報告書」を発行し、受託者に保管をお願いしています。この報告書には、①前回報告時の管理財産一覧、②報告期間中の収支状況、③今回報告時の管理財産一覧、④高額な支出を伴う際にはその使途、⑤受託者から相談を受け、あるいは受託者に改善・修正を求めた事項、などを記載しています。
後日、親族の皆さんが受託者の業務に疑いの目を持った際にも、業務が適正であったこと、あるいは是正すべき事態に至ったときにどのような対応をしたのか等が一目で確認できるような記録の保管に資するようにと考え、現在のスタイルに到達しました。

私の場合、信託監督人の報酬は、特別な事情のない限り月額1万円。
成年後見制度のような裁判所による監督機能がない信託を、社会の中で信頼に足る制度として認知されるようにすることも、信託に携わる実務家の役割だと考えています。
そこで、できるだけ金額をおさえ、多くの信託で信託監督人制度を導入してもらいたいという希望を持って対応しています。   (中里)

民事信託できますか?

「父が認知症と診断されたのですが、どの程度まで民事信託ができますか?」

ときどき、問合せがある内容です。

私がお答えする基本スタンスは、「成年後見制度の検討をされた方がいいと思います」ということです。

ちなみに、後見制度を活用する場合、家庭裁判所に医師の診断書を提出します。

診断書の抜粋です。

3 判断能力についての意見

 □ 契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができる。 

 □ 支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することが難しい場合がある。

 □ 支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。

 □ 支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。

一番下が、後見相当で、一番上が、判断能力に問題ないということになります。

民事信託をは、お元気な内にご検討されることをお勧めいたたします。

もっというと、お子さんではなく、ご本人のしっかりとした理解と決断があることが必要であることは言うまでもありません。(名波)

 

後見制度について(1)

どんな人でも、その身にふりかかることのある重大なことに対して、その人が持っている財産の行く末を決める2つの法制度があります。

人の死亡に対処する相続制度と、人の判断能力の低下に対処する成年後見制度です。

「人はいつか必ず死ぬ」ということは誰でも知っています。それなので、人は自分が死んだ後のことを心配して、相続制度について勉強します。もしも、自分が今死んだら、身内の誰がどれだけ相続することになるのか、あるいは、どれだけの相続税を払わないといけないのか、遺言書は作成した方がいいのか、作成する場合にはどのように作成したらよいのか、といったことです。

これに対して、「人はいつか必ず認知症になる」とはいえません。
幸いにして脳が健全なまま天寿をまっとうする人も多いでしょうし、精神に障害をきたすまでもなく、想定していなかった事故により突然命を絶たれる人もいます。そのためか、人は、自分が期せずして判断能力が低下してしまったときのことを、あえて想像しようとはしません。
 厚生労働省の2015年1月の発表によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。
今後高齢化がさらに進んでいくにつれ、認知症の患者数がさらに膨らんでいくことは確実です。
厚労省が今回発表した推計によれば、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みです。

成年後見制度に対する理解がまだ浸透しているとはいえないのですが、その理由の一つといえると思います。

しかし、成年後見制度の必要性・重要性は、相続制度の必要性・重要性を上回るとさえ言われています。

それは、死後の財産を1回限りで処分する目的の相続制度よりも、生前の財産を継続的に管理する目的の成年後見制度の方が、財産保有者の尊厳に配慮した繊細な法的規律が必要といえるからです。