遺留分算定のための贈与の範囲についても改正があります。
遺留分を算定するための財産の価額は、次の計算式で算出されます(改正民法1043条1項)。
① 被相続人が相続開始時に有した財産の価額 +
② 被相続人の贈与財産の価額 -
③ 被相続人の債務の全額
このうちの②について、この贈与が相続人以外の者に対する贈与であるのか、相続人に対する贈与であるのかによって、異なる規定が置かれました。
(1)相続人以外の者に対する贈与
【設問】亡父が、亡くなる3年前に内縁の女性に1000万円を贈与していた事実が判明しました。この1000万円は、遺留分を算定する際に考慮できるでしょうか?
【解説】相続権以外の者への贈与の場合は、相続開始前1年間の贈与に限り、その価額が遺留分に算入されます。以上の点は、改正の前後を通じて実質的な変更はありません。したがって、すでに贈与から3年が経過している今般の贈与は、原則として遺留分算定のための財産の価額に含まれないことになります(改正民法1044条1項前段)。
また、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与は、1年間に限定されない点も改正の前後を通じて変更がありません(同項後段)。贈与の相手が内縁の女性でとのことですので、後段の規定が適用される可能性は高いものと考えられます。
(2)相続人に対する贈与
【設問】亡父が、亡くなる20年前に弟に結婚資金として500万円を贈与しています。この500万円は、遺留分を算定する際に考慮できるでしょうか?
【解説】相続人に対する贈与の場合、上記②の贈与財産に含まれる価額は「相続開始前10年間の婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本として受けた贈与」とされました(改正民法1044条2項)。かつての判例では、相続人が過去に受けた特別受益はすべて遺留分算定のための財産の価額に含むとされていましたが(最判平10・3・24判例時報1638号82頁)、改正法により10年間の制限が設けられたことになります。
したがって、すでに贈与から20年間が経過している今般の贈与は、原則として遺留分算定のための財産の価額に含まれないことになります。もっとも、相続人に対する贈与の場合も、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与は、10年間に限定されません。
また、特別受益に該当しないような贈与の場合は、相続開始前10年間の贈与であっても遺留分算定のための財産の価額に含まれないことになりますが、この場合も当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与は、10年間に限定されず遺留分算定のための財産の価額に含まれる点にご注意ください。