最近、テレビや雑誌、セミナーなどで相続や後見に関する特集が組まれ、「親や配偶者、自分の相続について対策をしよう」「遺言や家族信託、任意後見などを検討しよう」という情報が多くあるせいか、これらに関してご相談を頂く機会が増えております。その中でも今年は相続法の改正があったせいか、特に「遺言」についてのご相談が多く、「親や配偶者に遺言書を書くように進めたい」「今後のことを考えて遺言書を書きたい」という方が多いです。
遺言書を作成する場合、遺言者(遺言を作成する人)に「誰に何を相続させるか」を決めていただく必要があります。本来であれば、誰に何を相続させるかは、「この人に相続させたい」という遺言者の意思のみにて決定すべきものですが、遺言者が資産家の場合、相続のさせ方(誰が何を相続するか)により相続税のかかり方が大きく変わります。よって、相続税がかかると思われる方の場合、遺言の内容を事前に税理士さんに相談し、なるべく相続する人の税金負担が少なくなるようにするという観点から、誰に何を相続させるかを決める場合も多いです。
そういう経緯で作成された遺言書は、当然税金面での対策が行き届いていたものになるのですが、たまに税金面を重視するあまり、「この人に相続してもらいたい」という遺言者の本来の意思とズレがあったり、実際にその財産を必要とする人と相続した人が相違しており事態が複雑化している事案も見受けられます。
例えば、祖父と孫が養子縁組をし、祖父から孫へ相続させる内容の遺言を作成した方がいました。祖父⇒子(孫の親)⇒孫と相続するより、祖父⇒孫としたほうが一世代飛ばせるので、その分相続税の支払いが少なくて済むというアドバイスにより、そのような遺言としたそうです。しかし、祖父が死亡し孫が相続した際、孫はまだ20代前半で未婚でした。祖父の持っていた不動産は、実際には子(孫の親)が住んでおり、孫は居住しておりませんでした。孫はまだ若いので、将来誰と、どこで、どのような暮らしをするかも決まっておらず、不動産を実質的に管理・使用するのは子(孫の親)でした。このケースの場合、祖父も子(孫の親)も、「どうせ孫のものになるから、一気に孫のものにした方が得」という考えでこのような遺言としたのですが、万一、子と孫の関係が悪くなったら、この遺言は子(孫の親)にとって大変な問題となります。不動産の名義は孫ですので、仲が悪くなれば、家賃支払いを求められたり、退去を要求されたりする可能性があります。
また、孫の結婚後、子より先に孫が死亡した場合、その不動産は孫の相続人のものとなります。孫の相続人は、孫に子がいる場合は、孫の配偶者と孫の子。子がいない場合は、孫の配偶者と子(孫の親)となります。子と孫との関係は良好でも、孫の相続人が所有者となった場合に、孫の生前と同様に問題なく過ごせるかというと、なかなか難しいのではないかと思います。本来であれば、遺言書を作成する場合にこのようなリスクを検討した上で内容を決めなければいけなかったのですが、税金面のみ考慮してしまったために、このようなリスクは見逃されてしまいました。
無論、たいていの税理士さんは税金面だけでなく、遺言者の意思や実情を考慮した上でアドバイスをされていると思います。しかし、なかには税務面のメリットのみに偏った内容の遺言書をご提案される方がいたり、遺言者が周りの意見を聞かず、税金面のみ考慮して内容を決めてしまう場合もあります。税負担は大きな問題ですが、それだけに振り回されるのではなく、「誰に相続させたいか」「誰に相続させるべきか」という観点に立ち戻り検討しなくてはならないと思います。