(契約に定めのない事項の処理及び契約の変更)
第14条 本契約に定めのない事項については、本条第3項の規定によるほか、信託法その他の法令に従うものとする。
2 委託者が死亡した場合、委託者の権利は消滅し、その地位は相続しないものとする。
3 本信託の変更は、受益者と受託者との合意がある場合に限り、書面によって行うことができるものとする。
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1項は当然のことを確認的に規定したにすぎませんが民事信託の契約当事者は必ずしも法律に詳しい方ばかりではありませんので、注意を喚起する趣旨で明文化しています。
2項は、ちょうど昨日、名波さんがこのブログで言及していましたね。
名波さんの指摘によれば「委託者の権利は消滅し」の部分は、落とした方が正確かもしれません。要・検討事項ですね。
ところで「委託者の地位が相続される」ことにより、どんな現象が想定されるでしょうか?
信託法の規定では、委託者の関与が必要となるケースがいくつかあります。
受託者の解任(信託法58条)や新受託者の選任(同62条)、信託条項の変更(同149条)などはその代表例です。
信託契約は、委託者が死亡した後も、契約で定めた終了事由が生じない限り契約そのものは継続します。むしろ、委託者の死後の財産承継を含めて制度設計するケースの方が多いと思われますので、「委託者死亡後」を想定しなければなりません。
委託者の地位は、委託者の相続人全員に相続されることになります(もっとも、相続人全員による遺産分割協議により、どなたか一人に承継させること自体は可能)。委託者の地位を相続した相続人が、委託者と同じ想いをもって信託に関わってくれればよいのですが、そんな理想的なケースばかりではないのが現実です。
相続により委託者の地位を承継した相続人が、以後の信託契約に当事者(の地位を承継した者)として関与することになると、さまざまな局面で、信託契約当時に思い描いたプランの実現に支障が生じることも考えられるわけです。
もちろん、このような事態を想定し、信託契約で法律の規定を柔軟に変更し、委託者の関与を必要最小限にとどめる等の工夫を施しているわけですが、これも万全ではありません。
そこで、権利関係の複雑化やプラン実現へ向けた障害等を排除する目的で「委託者の地位は相続しない」旨の規定を置くことにしたわけです。 (中里)